大塚謙太郎

おおつかけんたろう

ちびっこ計画・大塚謙太郎一級建築士事務所

[ 大阪市生野区 ]

職種

コラム

 公開日: 2015-10-29 

おすすめの本:『「子育て」という政治』  少子化なのになぜ待機児童が生まれるのか?

 上尾保育所事件を、綿密な取材で深く掘り下げたルポルタージュ『死を招いた保育』で、日本保育学会第49回日私幼賞・保育学文献賞を受賞した著者が、待機児童と政治に焦点を当て、数々のデータを交えながら、生む前から保育園探しが始まるという異常な状況を、保活に臨む親の視点に立って検証する労作だ。本書のほかにもこの問題にまつわる書籍は数多くあり、制度の問題や、株式会社参入に対する批判など、行政や経営者の問題は多く聞こえてくる。しかし本書では、それだけに終始せず、現場を預かる保育士の労働環境の実態や、保護者側の問題にも言及し、あらゆる角度からの検証がなされている。
 保育士の有資格者は100万人を越えるが、実際に勤務しているのは3割程度だという実態に触れ、保育士の労働環境が、子どもの命を預かるというハイリスクな仕事にもかかわらず、低賃金・長時間の過酷なものであり、離職の大きな原因になっていることを明らかにする。
 また、預ける側、つまり保護者の問題にも触れる。著者の子を17時まで預かってもらいたいと保育園へ希望したところ、園長から、そんなに長く預けるのかと指摘されたという、自らの保護者としての体験を記し、「放っておいたら夜中まで、子どもを誰かに次々に預けてでも働いてしまっていたに違いない私にとって、それが子どもにとっていかに大変なことなのかを教えてもらった」のが保育所だったと述懐する。そうとわかっていても、子を預け、生活のために働かざるを得ない現在の子育て世代が直面している労働事情は、非正規雇用の増加に伴って不安定さを増している。とにかく長く預かってもらいたいという親を、単純に批難できないところまできてしまっているのだ。さらに、「預かってもらえるならどこでもよい。」という親の考えが、預かる側を「預かればなんでもいい。」という保育に堕とすと警鐘を鳴らす。問題は連鎖し、やがて子どもたちの不利益へつながっていく。
 本書を読み、私たちは、ここまで子どもに冷酷な社会を作ってしまったのかと、ため息をつくばかりである。子育て環境が歪んでいるのではなく、この国の社会構造が歪んでいるのだ。それは、子どもたちの人生を明らかに圧迫している。11時間保育が常態化し、朝は目も覚めやらぬうちから服を着せられ、時には食事もとらずに保育所に送り届けられ、夜は夕食を食べて風呂に入って寝るだけの毎日に休日保育まで付いてくる。それは、第一義的責任があるはずの保護者のニーズなのだ。私が仕事でお世話になっている、ある保育園の園長は、「親から子育ての権利を奪うたらあかん」と、休日保育の実施を頑なに拒む。平日に長時間保育に預けるのだから、休日はしっかりと親子の時間をとりなさいという趣旨だ。ニーズと責任と理想の狭間で保育園が抱える矛盾が浮かび上がってくる。
 著者は、かつて「日本が子供達の天国だということである。この国の子供たちは親切に取り扱われるばかりでなく、他のいずれの国の子供より多くの自由を持ち、その自由を濫用することはより少な」いとしたエドワード・モースの文を引き、「こんな日本をもう一度作っていかなければならないと思う。」と結ぶ。
 皆で手を携えて考えていきたい。
(大塚謙太郎)



BOOK DATA
『「子育て」という政治』少子化なのになぜ待機児童が生まれるのか?
【著】猪熊弘子
価格●800円(税別)
出版●株式会社KADOKAWA
発行●2014年7月
ISBN●978-4-04-731437-5
17.3×10.7cm、223頁

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