コラム

 公開日: 2016-03-10 

ベトナム人の信頼を得るための心得


日本企業が海外で事業展開する際、一番大きな失敗は、何ごとにつけて日本のやり方を押し付けることです。海外で事業を行うということは、その国にとっては外国企業であり、私たちは外国人であるという意識が希薄では、現地人から信頼を得ることができません。私たちはその国ではゲストであり、事業をさせていただいているという気持ちを大切にし、いかにしてその国、社会、現地の人たちにお役に立てるか、発展に貢献できる事業を行うかということを片時も忘れてはいけません。何のためにその国で事業を行うのかという経営理念、ビジョンがなければ、ただ利益が上がれば良い、単にコストダウンという利己主義的な事業展開に陥り、現地の人々や地域社会から受け入れられず早晩事業が行き詰るのは必定です。

特に海外事業に慣れていない中小企業にとって、単に売上と利益のために海外に出るという感覚は非常に危険です。私が企業の海外展開をご支援させていただくときに一番重視しているのは、何の目的で海外展開を行うのかということです。その企業の経営責任者が、売上や利益を上げるために海外に出ていくという目的しかないのであれば、私は支援をお断りすることにしています。企業というのは社会に貢献して初めてその存在価値がある社会の公器であり、それは海外に出ても同じことです。その展開国の発展に貢献できない事業であればやるべきではありません。社会に役に立つための事業というポリシーがなければ、儲かれば良いという経営に陥り、環境汚染を引き起こしたり、過酷な労働搾取や詐欺的な取引が行われる土壌が生まれます。少なくともベトナムにおいて日系企業の評判が良いのは、今までの日本企業による事業が、ベトナムの社会に貢献しているという認識が持たれているからであり、某国のように品質の悪い製品を売りつけたり、ストライキなど労働争議が頻発していることは少ないため、自信をもって良いと思いますが、これから進出される中小企業においても留意するべき点です。

ベトナム人の信頼を得る5か条-①


何もベトナム人ということだけではありません。外国企業が海外、特にアジア各国で事業展開する際に、現地の人々から信頼を得るためにはどういう点に配慮するべきかということについて述べたいと思います。

まずは、「ベトナム人を見下す言動をしない」ということです。
これは普段気づいていなくても知らず知らずのうちに、つい上から目線での言葉や行動が出ることがあります。外国人と現地の人という関係だけではなく、日本の中でも他人を見下す人は多いです。例えば購買部門の人がサプライヤーに対して横柄な態度をとったり、お客様至上主義的な社会文化で育ってきた日本人は、特に買う立場の人、場面で、売る立場の人を見下す言動を取るケースがままあります。しかし、これは海外に出ると特に忌み嫌われます。
また、某国はその民族性からベトナムや東南アジアの人々を無意識に差別しているのを目にします。仕事の上下関係と人間関係は全く別物です。上司部下の関係であったとしても、また取引関係であったとしても、職業の違いがあったとしても、所詮一対一の人同士のつながりであることは忘れてはいけません。常に相手に尊厳をもって接する態度はとても大事だと思います。ベトナム人に限らず、私たちと接する現地の人たちは尊敬に値する人かどうかよく見ています。
これこそが海外展開の心得第一条といえるべきものです。

ベトナム人の信頼を得る5か条-②


二つ目は、「メンツを重んじ相手に花を持たせる」ことです。
日本人は叱ることが下手な人が多いという印象を持っています。日本人の一番ダメなところは、人前で叱る(というよりも感情をぶつけて罵るケース)ことが多い点です。組織を引き締めるために、連帯責任として一人をスケープゴートにして、皆に叱っていることを見せる人がいます。日本でもこのようなやり方は批判を受けますが、これは海外では絶対にやってはならないことです。叱ることでなにくそと這い上がっていく気持ちを鍛える効果を狙い、人材育成の手法として、特に古いタイプの経営管理者や徒弟制度的な風土を持っている企業でこのようなやり方を良しとしているところが多いようです。
少なくとも海外拠点の経営責任者を人選する場合、このようなタイプの人は組織を壊すだけですので、選ぶべきではありません。とりわけ海外においては。面罵は人として最低の行為であるという認識を持つべきです。ベトナムに限らず、海外の国の全ては、その国、社会に誇りを持っていますし、国民一人ひとりプライドを持っています。
「仕事もできないのに、何を偉そうなことを言っている」というような叱り方はブライドを傷つけます。これは日本でも同じことなのですが鈍感な人が多いです。プライドを傷つけて厳しいことばかり要求しても人など育つはずがありません。
特に中国人はメンツが何よりも大事であることはよく知られているところではありますが、ベトナム人を含めアジアの人全体に言えることとして、メンツがなくなるようなことは叱り方をするべきではなく、周囲に対してその人のメンツが保たれるよう花を持たせることは忘れるべきではないと思います。叱るときは、別室に呼んで相手が納得できるまできっちりフォローするべきです。

ベトナム人の信頼を得る心得-➂


三つ目は「ベトナムの習慣を大事にする」ことです。
先日のコラムでも取り上げましたように、国際婦人デーに花をプレゼントする習慣があること、また誕生日も重要であることを述べました。その他に、テト休暇には上司が目下のものにお年玉を渡す習慣があります(この習慣については、後日別のコラムで述べたいと思います)し、悪しき習慣かも知れませんが、ティーチャーデイという先生の日に、生徒の親が学校の先生に付け届けをするということや、病院では看護婦や医者に付け届けをするということが習慣としてあります。日本人の感覚からすると、汚職の元凶ともいえるような習慣ではあります。公務員を対象とすると贈収賄につながりかねないので、このような習慣はなくなってほしいとは思いますが、人に感謝の気持ちを贈り物に添えて伝えるという贈り物文化については理解しておくべき点ではあり、一概に外国人の立場で批判するだけで良いというものではありません。
日本でも、昔はお中元やお歳暮など今よりもっと派手にお世話になった人に贈り物をしていたと思いますが、だんだんと少なくなってきた経緯もありますので、ここは現実はどうかということの理解とともに、その歴史、文化の背景や考え方にを大事にしていている現地の習慣はわかるべきではないかと思うのです。
賄賂要求にどう対応するべきかという点については別途コラムで述べたいと思います。

ベトナム人の信頼を得る心得-④


四つ目が「機をとらえてベトナムの素晴らしさを称える」ことです。
ベトナムは日本とは違うのは当たりまえですから、日本と比較してどこが良くないとかということはよく目につきます。しかし、ベトナムが日本より遥かに良い点もたくさんあります。そんなものはないと言われる現地駐在の人がおられましたら、すぐにでも帰国されることをお奨めします。これもベトナムに限ったことではありません。外国人からこの国のこういった点が優れている、素晴らしいということを聞いて気分が悪くなる人はいません。一方で、他国の批判ばかりして自分がいかに比較してその国より優れているかを誇張するような国に対しては悪感情や憎悪しか残りません。少なくとも親日国といわれるベトナム、インドネシア、タイ、フィリピン、インドや台湾の人々は、けっして理不尽に他国を批判することはありませんし、そのようなことをしない日本のような国に対しても大きな信頼を寄せています。
その意味でも、進出した日本企業はベトナムの問題点にばかり目を奪われるのではなく、良いところ、素晴らしいところを褒めてリスペクトするという言動をすることにより、より良い両国間のコミュニケーションにつながると思います。

ベトナム人の信頼を得る心得-⑤


最後は「ベトナム語を少しでも話す」ことです。
ベトナム語は日本人にとって非常に難しくハードルの高い言語です。インドネシア語などは半年ほど真剣に勉強すると、ほとんど話せるとよく聞きます。私もベトナム駐在時に一年ほど家庭教師に来てもらってベトナム語を勉強したのですが、ほぼ挫折に近い状態でした。ただ、日常生活上は、かなりの部分はベトナム語でコミュニケーションできるようにまではなりました。そういったベトナム語ですから、流暢にベトナム語を操る外国人はあまり見たことがありません。それだけにベトナム人にとって、少しでも努力してベトナム語を話そうとする外国人を見ると、ものすごく嬉しそうにしてくれます。ほとんど何を言っているかわからないという反応をされるのですが、皆さん顔は笑っています。ベトナム語を話そうとする外国人には、相当の親近感を感じているようで、私たちと同じ土俵に立って同じ目線でベトナム人と相対してくれているという感情を持ってくれるのです。
私がハノイに駐在していたときのアパートの大家さんは、ほとんど英語もできませんし、もちろん日本語もわかりません。私の片言のベトナム語と大家さんの片言の英語で、大部分は通じていないにもかかわらず、お互い信頼感を持って楽しいベトナムライフを過ごしていましたし、最後に私が退職して日本に帰国する際にはワンワン泣かれるし、先般ベトナム出張時にお土産を持っていくと大変喜んでアパートの空き部屋に一週間泊めてくれました。

中小企業がベトナム展開する場合、言葉の壁が大きいです。もともと英語ができない方が赴任されるケースが多いために、日本語ができる社員を中心に採用したり、通訳を通して組織づくりをされるところがあります。ある面仕方がないのですが、やはり歪な組織構造となりますし、マネジメント幹部人材の育成にも困難が生じます。日本人出向社員は、最初から言葉をあきらめるのではなく、少なくとも仕事は英語で進められるように努力し、社員とのコミュニケーションについては、何とか片言でもベトナム語を話すことで、距離感をぐっと縮められるのではないでしょうか。

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