コラム

 公開日: 2016-03-11 

ベトナム進出立地と進出形態の検討


海外進出するにあたって、最も重要なのは①進出目的の明確化、②販売先の確認、③現地法人の機能の3つから基本戦略をまず構築することです。この基本戦略で、誰に何をどのように価値を提供するかという事業ドメインとビジネスモデルが明確になっていきますので、それらを踏まえて最適な進出立地と進出形態を検討することになります。検討過程において押さえておくべき5つのポイントについて説明します。

①北部か南部か、または中部か


ベトナムは南北に長い国ですので、どの地域に展開するかというのは重要な経営判断項目の一つです。
検討ポイントとしては二つあります。まず、販売先、資材調達先、協業先はどこかということを整理し、物流コスト面、リードタイム面の優位性から絞り込むことです。主要な資材調達先が南部に集中している一方、主要顧客が北部にある場合、どこに生産拠点を持っていくかは悩ましいところです。あと検討するべき点は、物流インフラなどの整備状況や、人材確保、交通アクセス、ITやそのほかインフラサポート体制、インセンティブなどを総合的に評価することです。

一般論的ではありますが、北部、南部、中部の3地域に分けて、それぞれメリットとデメリットを整理してみます。

1)北部は、自動車や電機、OA関連の大手組立メーカーが集積していますので、大手への部品下請けを事業の中核にされているところは、北部への展開を第一に考えられるところが多いです。また、ハノイは政治、行政の中心地ですので、法改正など政府関連情報を入手しやすくリスク対応には有利であると言えます。
一方、デメリットとしては、裾野産業の広がりが南部に比べて狭いということで、原材料調達などに苦労するのが多いことです。

2)南部は、中小の裾野産業の幅が広く、協力先企業の数も多いというメリットがあります。また商業都市として流通や消費トレンドの先端を走っている地域になりますので、今後伸びる流通・サービス産業にとっては注目するべき地域です。デメリットは、ハノイと同様交通渋滞が激しく、製造業が中心部から周辺地域に広域拡散しており、結構交通アクセスが厳しいことと、ハノイから遠いということや商業都市ということもあり、政府の動きに対して全般的に反応が鈍く、リスクマネジメントに苦労するケースが多いようです。

3)最近脚光を浴びておりますダナンを始めとする中部ですが、地方政府の積極的な支援や、良好な居住環境、安価で安定的な労働市場というメリットから、自己完結型で完成品を製造するメーカーや、開発、設計、デザイン関連の産業が注目しています。しかし、人口もハノイ、ホーチミンに比べると圧倒的に少ないので、専門人材が不足していることや、原材料や部品、二次加工の現地調達が厳しいというデメリットがあります。

②どのような工業団地に進出するべきか


ITやデザイン、サービス関連産業は都市のオフィスに進出するのが一般的ですが、製造業であればだいたいどこかの工業団地に進出することを検討します。大別して、日系商社などが経営する日系の工業団地や外資のデベロッパーなどによる外資系工業団地と、ベトナム国営企業系工業団地のどちらかを選択することになります。

日系や外資系工業団地は、開発、運営ノウハウをきちんと持っていますので、事業インフラの質やサポートは充実していますが、反面高コストです。一方、ベトナム国営系では、低コストではありますが、サポート体制が弱く、日常のトラブルが多いという実態もありますので、コスト面とサポート面双方から見極める必要がります。特にコスト、サポート以外に留意するべきチェックポイントとしては、開発ライセンスの状況、土地使用権の確保状況、開発業者自身の与信状況、工業団地が取得している環境ライセンス、排水、騒音、排気基準などの環境規制項目についての確認も必要です。もちろん工業団地としての電力、上下水道、洪水対策、整地状況、土壌汚染状況など基本インフラの確認は当たりまえのことですが、ローカルの開発業者は一部信頼の置けないところもあります。

➂進出形態をどうするか


意外かも知れませんが、ベトナムはWTO加盟が遅かったという背景から、タイやインドネシアに比べて外資規制は緩い国です。外国投資を誘致することによる経済発展を柱にしてきたこともあり、外資に対する規制緩和がかなり進んでいます。ただ進出業種の外資規制についてはまず確認するべき点です。規制緩和が進んでいるとは言え、まだ多くの業種において外資による資本の上限が設けられていたり、外資による投資そのものを禁止している分野もあります。一般的に、製造業はほぼ外資100%での設立が可能と言っても良く、設立そのものに関する規制はほとんどありません。

しかし、流通や小売分野ではまだまだ規制が残っています。小売ライセンスはWTOロードマップ上は2015年に外資に開放されたのですが、実際の認可にはハードルが高く、多店舗展開するためのENT(エコノミックニーズテスト)による評価を踏まえた認可プロセスは、TPPでも一定期間残ることが合意されていますので、一気に開放が進むということはないと理解しています。

外資規制は常に変化しますので、その情報を感度を上げて収集し、どのような形態で進出するのがベストか検討する必要があります。しかし、たとえ100%独資が認められたとしても、独資では国内の販売チャネルを構築するには難しい課題が多いため、うまく合弁や協業、M&Aを組み合わせて進出形態を検討することが得策です。

④EPEかNON-EPEか


外資企業は、輸出加工企業(Export Processing Enterprise : EPE)か、非EPEのどちらかの企業形態かで認可を受けることになります。事業展開のビジネスモデルが、ベトナムで加工して日本へ持ち帰ったり全数輸出するものであれば、EPEで設立することにより保税工場扱いになるため、原材料の輸入関税やVAT免除、EPE間取引に通関手続きが不要など手続き面でのメリットが大きい形態になります。しかし、税法上外国企業と見なされるため、国内販売する場合には輸出入通関手続きが必要で、その製品に相当する分の原材料の関税追加払いやVAT管理が複雑になります。昨今、申告歩留まりと原材料の在庫管理の関係から、税務査察に関する問題が頻発しており、税務当局はEPEを追徴査察で狙い撃ちしています。国内販売が一定以上あると見込まれる場合には、最初から非EPEで設立する方が得策と言われています。

⑤自社工場建設か、賃貸工場活用か


最近中小企業によるベトナム進出が増加しており、その多くが賃貸工場での展開を検討されています。
賃貸工場はいわゆるアパートと同じですので、操業までのリードタイムが短いことと、初期投資金額を圧縮できること、そして規模拡大に合わせて移転しやすいというメリットがあります。また、立ち上げ時のサポートがあるので、リスクを軽減するメリットが大きいです。しかし、賃貸工場なので工場設備やレイアウトなど制約条件があり、最適の物件を見つけにくいということや、拡張余地が小さいので、広めの工場を賃貸することで総投資額が大きくなるデメリットがあります。

一方、自社工場建設は、賃貸工場とは逆に、自社で自由にプランできるというメリットや厚生施設や管理施設を独自に運営できたり、将来拡張を見越した様々な展開オプションを検討することができます。当然、デメリットとしては、操業までの時間がかかることと初期投資額が大きくなること、事業進捗に合わせて移転するのはそう簡単なことではないということです。

進出先の選定、進出形態の決定はほぼ以上の件で明確にできると思いますが、実際には運営上の課題把握と対応の方が難易度は高いところです。そのポイントについては、次回のコラムでお伝えします。

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