コラム

 公開日: 2016-03-14 

海外事業における社会貢献活動とPR



日本企業が海外で事業を行ううえで、忘れてはいけない最も重要なこととは何でしょうか?

もちろん、売上げと利益がきちんと確保されて、投資回収が確実に行われることは経営上当然のことです。一方、進出国の立場から考えれば、外国企業がその国で事業投資を行うことによって雇用が拡大し、利益を上げて納税されることで、社会経済の発展に寄与することが期待されています。しかし、ただ単に売上と利益さえ確保できればそれで十分とは言えません。企業にとってのステークホルダーは、株主や顧客、進出先の政府機関だけではなく、取引先、従業員や地域住民やNGOなど社会全般に広がります。それぞれのステークホルダーとの相互コミュニケーションは、企業活動において極めて重要であり、従業員数も少なく、顧客も限られた大手メーカーというような中小企業であったとしても、企業の存在を支えてもらっているあらゆる関係先と良好な関係を構築することが肝要です。

海外事業においては、私たちはあくまで外国企業であり、その国、社会の経営資源をお借りして事業をさせていただいているという認識を持つことが、最も重要であると考えます。

社会貢献の基本


企業は社会の公器であり、国、社会、人々の暮らしの発展に貢献できなくては存在する価値がありません。海外では特にこの考え方が重要で、儲けるためだけにその国で事業をやっているだけでは、従業員も育ちませんし、地域社会や国から支援を受けられないどころか、最悪排除されてしまうこともあります。従業員の能力が向上し育っていくということは、もちろん企業にとっての人的資源力向上という意味になります。同時に人が育つという意味は、社会基盤の強化と同じことであり、たとえ将来転職したとしても、育ててきた結果として、スキルを高めた人材を社会に輩出する立派な社会貢献にになります。

従業員には給料を払っている、原材料や資材などを購買して自分のお金を払っている、工業団地での工場建設も自分の投資で賄っている、資金調達も自分の信用と担保でやっている、自らの経営で事業をやっているのだから、何が問題だという経営者もいるでしょう。しかし、従業員に給料を払うということは、現地の人々の労働力をお借りしているということです。従業員を自分の所有物にしたわけではありません。経営者一人で全ての経営資源を賄うことはできません。対価を払って購入しているということであって、購入先自身が社会の経営資源である人、モノ、カネ、ノウハウなどを借りて作り上げた価値を利用させていただいていることに他ならないと思います。提供される価値に対して対価を払うということは商行為そのものですが、その商行為を通じて利益を上げることに加えて、その企業活動を通じていかにして社会の経営資源に還元していくかが、企業としての社会貢献の基本的考え方であると思います。もちろん、利益から税金として社会に還元するのは当然のことであり、雇用を創出するのは企業として大きな役割です。

しかし、税金と雇用だけで十分貢献できていると言えるのでしょうか。ほとんどの企業は、事業を通じていかに社会の発展に寄与していくかということを企業理念の根幹に据えておられます。海外事業においても企業理念を踏まえて、その国、社会、人々にどう貢献していくかということが、その国での存在価値そのものになりますし、社会貢献活動の基本とも言えます。一般に社会貢献活動とは、何か寄付をしたり、事業とは関係のない奉仕活動を行うことと誤解されてる場合がありますが、本質は企業理念の実践活動の一つに過ぎません。「社会貢献活動をやって何か利益が上がるのか?そんな無駄な時間とコストをかけるほど暇じゃない」と言い切る経営者の方もおられますが、社会貢献とは企業理念の実践そのものであるということを是非考えていただきたいと思います。企業理念に即した社会貢献活動を継続することにより、その国のステークホルダーは、企業の社会的責任に取り組む姿勢を評価し、企業イメージと信頼感を高めることに繋がります。

社会貢献活動の実践


企業活動を通じてその国の社会、文化の発展に寄与するには、まず求められるのは社員を雇用し、利益を上げてきちんと納税することは言うまでもありません。それは当たり前のことですから、税金を納めているからといっても、特段企業として評価を受けることはなく、企業イメージが高くなってブランド価値が上がるということもないと言えます。

雇用、納税以外の社会貢献活動として考えられるのは、企業理念の考え方に繋がる活動への展開です。例えば「絶え間ない技術革新で社会のニーズに応え続ける」というような企業理念を持っている企業があったとします。すぐには社会貢献の分野については思いつきにくいと思いますが、その国、社会が絶え間ない技術革新を行える人材を輩出することにメーカーとして貢献するという考え方に立てば、技術系学校への奨学金供与であるとか、将来の技術人材を担う子供たちに加科学に興味を持ってもらうような理科実験の出前授業を実施したり、小中学生による親子工場見学会を開催をするなど、いろいろと考えられます。また、環境技術に特化したような企業であれば、その国の環境保全への貢献ということで、緑化運動とか地域清掃活動などを地元政府や教育機関に提案して共同でイベントを実施することも可能です。

一般的に新興国での社会課題に焦点をあてた社会貢献活動としては、「地域社会での人材育成貢献」と「地球環境保全活動による環境貢献」、「文化芸術分野支援による社会文化貢献」の三つの分野を取り上げるところが多いように思います。「教育」と「環境」「文化」そのものについては、反対する人はまずいません。しかし、イデオロギーや政治的活動をしている団体に協力するような社会貢献活動には十分注意が必要です。ややもすると企業として具体的な活動をすることに時間や労力がかかるために団体への寄付で済ませて、社会貢献していますということを言われる企業がありますが、一度寄付を行うと毎年要望され続けますし、団体の主張や行動が企業の企業理念とかけ離れていたときには、かえってブランドイメージを損なうリスクもあります。特に「環境」と「文化」関連団体への寄付は慎重な検討が求められます。

寄付は一つの社会貢献の形ですが、ややもすればお金を出すだけで、その団体への活動そのものと企業経営をリンクさせることは困難です。企業を支えてもらっているステークホルダーと不断の対話を通じて相互信頼の醸成を図ることが本来の社会貢献活動であることを考えますと、社員全員で行う地域社会とのコミュニケーション活動を主体にするべきかと思います。

社会貢献活動と広報戦略の重要性


ステークホルダーとのコミュニケーションとしての社会貢献活動を企業経営に組み入れるときに重要なのは、「継続性」と「PR活動とのリンク」です。社会貢献活動は、国、地域社会との共生を柱に企業としての社会的責任を目に見える形にしたものですので、何の脈略もないイベントを単発で行っておしまいではなく、できれば毎年、決まった時期に継続させることが重要です。そうすることで地域社会だけでなく、従業員自身にとっても、この会社はいかにその国、社会に貢献するすばらしい事業をやっている会社だというイメージがだんだんと醸成されてきます。結果、地域住民や従業員との相互信頼感という絆が生まれ、新たに従業員募集をしても質の良い人が多く集まるという効果や、従業員の満足度向上という効果による定着度の改善にもつながります。また何かトラブルがあったときや、不幸にして撤退や従業員削減というような事態になったとしても、地域や政府当局から最大の支援を貰えることもありますので、社会貢献活動の意味は決して小さいものではありません。

また、社会貢献活動は時間とお金の無駄と思われる方もおられますが、実際そんなに費用はかかりません。出前出張授業などは、教材以外はほとんど不要ですし、地域環境保全活動などはPR以外にはあまり費用は発生しません。労力は大変ですが、実際従業員は喜々として取り組んでくれます。日本での従業員に社会貢献活動のボランティアを募っても、個々の私用を優先する人が多いのですが、少なくとも新興国での社会貢献活動には、従業員自身も社会的意義を感じている人が多く、喜んで参加してくれて満足度も高いと言えます。

ただ、せっかく労力と費用をかけて取り組む社会貢献活動は、国、地域、社内の多くの人に知ってもらわなくては意味がありません。積極的にPRしていく広報戦略が必要です。宣伝広告は非常にコストがかかるので、あまり奨めることはできませんが、教育や環境はメディアも社会課題との認識が高いため、こういった企業による社会貢献活動を取材し記事にしたり、場合によってはTVクルーが入って、地域のニュースとしてタダでオンエアしてくれることもあります。そのためにはメディアとは日ごろから情報を出すなど関係強化を図っておればうまく活用できます。また、地方の公共団体や認可当局など政府機関にも、積極的に社会貢献活動の紹介を行って、場合によっては協賛してもらうことで、メディア取材も入りやすくなりますし、地域の教育機関や環境行政当局の出席が広がることで、企業イメージがさらに高まるという効果があります。

少なくとも日本の中小企業にとっては、社会貢献活動など全く関係ない世界の話で、大手企業がやることと思われておられる方が多いように思います。しかし、海外事業を展開する際には、どんなに小規模の事業であったとしても、国、地域とのつながりや従業員との関係性は、日本とは比較にならないほど密度が高いと言えます。ブラントイメージもないし、会社そのものは誰も知らないと考える必要はありません。日本企業というだけでも「信頼の証」というイメージ資産があり、それを生かさない手はありません。いかにうまく地域社会や政府機関の信頼を高めて、愛される企業としてステークホルダーに支えてもらえるかは、企業の社会貢献活動そのものにかかっていると言えます。

海外での社会貢献活動についてご相談があればいつでもお問合せください。

この記事を書いたプロ

リープブリッジVJ中小企業診断士事務所 [ホームページ]

中小企業診断士 杉浦直樹

大阪府大阪市中央区久太郎町4-2-15 星和CITY BLD御堂ビル6階 御堂筋センターオフィス内 [地図]
TEL:06-7878-6531

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
海外赴任者研修

海外事業の成功には、海外要員、特に海外出向責任者に対する徹底した経営研修が必要です。経営スキルが不足している日本人社員を海外拠点の責任者として赴任させる...

 
このプロの紹介記事
リープブリッジVJ・杉浦直樹さん

海外進出を図る企業を総合的に支援(1/3)

 中小企業診断士の資格を持つ人は、国内に大勢います。しかし、海外に目を向けて、中小企業の立場に立って機動的に一緒に現地へ赴き、全般的に海外展開支援できる独立診断士は、それほどいないでしょう。リープブリッジVJ中小企業診断士事務所代表の杉浦直...

杉浦直樹プロに相談してみよう!

読売新聞 マイベストプロ

みなさまの海外での事業展開を全力で応援します

会社名 : リープブリッジVJ中小企業診断士事務所
住所 : 大阪府大阪市中央区久太郎町4-2-15 星和CITY BLD御堂ビル6階 御堂筋センターオフィス内 [地図]
TEL : 06-7878-6531

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

06-7878-6531

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

杉浦直樹(すぎうらなおき)

リープブリッジVJ中小企業診断士事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
新興国展開での人材育成の注意点
イメージ

中小企業が新興国に事業展開して一番苦労されるのがヒトのマネジメントです。特に人をどう採用し、育てて事業経...

[ 海外事業の人事労務管理 ]

外国人技能実習制度の問題に思う
イメージ

外国人技能実習制度が導入されて約20年になります。しかし、近年では本来の目的とは違った運用、つまり日本で...

[ 雑感 ]

人を大事にする経営は企業の社会的責任
イメージ

先日、「日本でいちばん大切にしたい会社」の著者で有名な坂本光司先生の講演を聞く機会がありました。以前より...

[ 経営戦略 ]

ベトナム進出後の課題に寄り添う
イメージ

中小企業のベトナム進出を検討するにあたっては、ジェトロなどの公的機関の支援制度や大手コンサルタント、会計...

[ ベトナム投資 ]

ベトナムサッカーの歴史的快挙に拍手
イメージ

日本ではあまりニュースになっていませんが、U19のサッカーAFC選手権がバーレーンで行われ、日本は決...

[ ベトナム人との付き合い方 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ