コラム

 公開日: 2016-03-17 

ベトナム投資のリスクと問題点


昨日はベトナム投資の魅力についてお伝えしました。
しかしベトナムに限らず、海外投資特に新興国ではリスクや問題点は多くあります。全てを回避、克服することは事実上不可能ですし、ビジネスにはリスクが付きもので、突き詰めていけばリスクを回避するには海外展開しないことになりますし、海外展開しない自体経営リスクとなることもあります。リスクや問題点を十分に認識し、対応策の手を予め打ってリスクを下げるためにも、どういった問題点に着目するべきかについて述べてみたいと思います。

一般的なベトナム投資のリスク


事業を行う上での問題点はいろいろとありますが、まずベトナムへの投資に対するリスクという観点から3つの代表的な要因項目について説明します。

① 為替リスク

ベトナムはまだまだ経済基盤が弱く、貿易赤字の産業構造となっており、実質ドル連動の変動相場制となっているため、ベトナムドン通貨の切り下げが恒常的に発生します。これは、進出する外資企業にとって収益を外的要因で揺さぶられるというリスクを抱えることになります。もちろん日本円とドルなど外貨との間の為替レート変動によって、収益が大きく変動しますが、ベトナムでの多くの企業は、原材料など部材を輸入する比率が高いため、原価率に影響を受けやすい構造といえます。通貨切り下げが行われますと、当然輸入部材価格の上昇を招き、またインフレ圧力が高まることで物価上昇を引き起こします。それらがまともに人件費の上昇圧力、物流費や国内調達部品の値上げなどにも波及することになり、一気にコスト高となる影響が出ます。輸出する場合はドルと連動するので、ベトナムドンが切り下がった場合、輸出価格力が高まることにはなりますが、コスト高がそれを打ち消すものの、国内市場向けの事業については、一気に採算が悪化するリスクがあります。

貿易収支悪化→通貨切り下げ→インフレ上昇圧力→消費者物価・人件費高騰に対して、政府のマクロ経済政策として金融引き締め、つまり金利上昇政策を取ります。そうすると物価上昇は抑えられるものの、成長鈍化に向かい景気の落ち込みとなります。それではいけないと今度は一気にアクセルを踏み金融緩和、金利の引き下げを行われ、成長率を高くする政策を打つのですが、そうすると今度は輸入が増えるために、貿易収支悪化を引き起こし、またまた通貨引き下げへの悪循環となるのが今までの経過です。

貿易赤字体質が根本の原因とも言えますので、もっと輸出を伸ばす産業構造への変革が求められているわけですが、それも外資による投資や外国からの経済援助、越僑からの送金頼みのところがあって、なかなか輸出ドライブのかかる産業への転換が進んでいません。TPPはさらに貿易障壁を下げる方向に向かうため、関税収入の低下や輸入増による国内産業の疲弊というリスクもありますが、一方で輸出競争力をつけた産業の育成にもつながりますので、ベトナムにとっては大きなチャレンジになると思われます。

ここ2、3年ほどベトナムドンのレートは比較的安定していましたが、昨年来の中国の影響を受けて、今年に入って若干通貨安へ誘導されているような状況です。

② 製造コストの上昇リスク

産業構造による通貨安も大きく影響しているのですが、製造コストの上昇は続いていくものと思われます。コスト増が付加価値の増加以下であればあまり問題はないのですが、販売価格が上がらないのにコストだけがどんどん上がっていくことは大きなリスクとなります。

特に注意するべきなのは、人件費の上昇です。人件費は付加価値増とは別の次元で、政治的に最低賃金の改定という形で強制されます。これは国民所得を増やす意味からも、意図的に政府が誘導している側面があり、ここ数年、消費者物価の上昇率を上回る最低賃金の上昇率となっています。例えば、2015年の最低賃金の上昇率は前年比14.8%アップとなっており、直近5年間で最低賃金はほぼ2倍となっています。一方、消費者物価は前年比4.1%増と落ち着いていました。企業に勤めている社員の人件費上昇が物価上昇を大幅に上回ることで、タイムラグを経て新たな物価上昇圧力となり、企業のコストアップだけでなく、物価上昇から金利上昇を招き、さらに競争力が低下することにつながりかねません。

人件費以外でも、製造コストが下がらない構造的な要因があります。裾野産業が発達していないため、多くの製造業は原材料を輸入資材に依存しています。つまり現地調達率が極端に低いのです。輸入資材に頼るということは、通貨安による輸入価格の上昇というリスクもさることながら、リードタイム対応力、資金調達コスト、在庫コスト面、物流コスト面で不利となります。輸入資材に依存している限りは、現地調達による競争原理が働きにくくなるので、現地製造会社自身での製造コスト削減が難しいという点があげられます。

③ 国内政治・政策の不安定化リスク

国内政治が安定していることを、投資先としての魅力の一つにあげました。しかし、やはり共産党一党独裁国家体制ですので、経済発展が進むにつれて、格差問題が徐々にではありますが表面化してきており、格差の拡大が社会不安定化のリスクになる可能性があります。

また、ベトナムではストライキは頻発するといっても良いと思います。経済発展段階ではある程度止むを得ない面もありますので、ストライキにどう対応するかは、経営リスクとしてきっちりマネジメントするべき項目の一つです。

次に賄賂の問題です。これの対応については別途詳しく述べたいと思いますが、ベトナムでの賄賂慣行の問題は、表向きの話と本音のところの話があり、全てオープンにした対応というのは難しいです。これは企業経営にとってもコンプライアンスの面でも悩ましい問題であり、全責任を現地出向責任者に負わせるというのも無理筋かと思います。ただ、一歩間違うとベトナムで事業を継続できなくなるだけでなく、刑事事件に発展したり、日本での処罰、第三国での事業禁止ということにもつながりかねません。経済発展とともに徐々にはなくなっていくものだとは思いますが、実態を十分に理解することがリスクマネジメントの第一歩になります。

国内政治は比較的安定しているとはいえ、ベトナムは微妙な対外関係のバランスの上に成り立っている国であり、外国の政治経済動向の影響を非常に受けやすいと言えます。中国は、最大の輸入相手国であるとともに、ベトナム人の国民感情が最も悪く、現在の政治関係でも南シナ海の領海問題で火が噴き出しかねない状況ですので、一番のリスク懸念対象国と言えます(日本も同じですが)。また米国とはベトナム戦争という不幸で生々しい傷跡をお互い抱えているわけですが、最大の輸出相手国であり、今や安全保障面でも非常に重要な位置づけになりつつあります。一方、ロシアとは長年の友好国であるとともに武器供給国です。また、韓国は現在では最大の投資国になっており、日本は最大の援助国というように、多くの列強国との関係においてもバランスを取った形ですが、何かをきっかけに崩れるリスクは常にあると言えます。

投資・進出にあたっての問題点


投資リスクについては、政治経済のマクロ問題であるだけに、一企業の努力だけでリスク回避を行うのは大変難しいところです。一方ビジネスに直結する問題点については、十分理解したうえで、企業の経営判断でリスクを最小化することが可能になると思います。その項目を4点あげたいと思います。

① 裾野産業の未発達

外資導入の経緯から、もともと低い労働コストを背景に、日本企業の多くは日本で販売する製品のコスト対応のために持ち帰り型工場として進出した製造業であったため、キーパーツや高品質の原材料は輸入資材に依存せざるを得ず、現地でなかなか調達先が見つかりにくい状況が続いています。これは卸流通の外資開放を認めていなかったことで、商流が未発達で小口原材料調達が難しいことも影響しています。そのため、現地に進出した工場の品質管理や外注管理能力の工場が実現できず、単に組立拠点となって付加価値が高まらないという矛盾を抱えています。ただ、近年ベトナム政府も日本政府も裾野産業の誘致、基盤の構築に向けて努力を続けている一方、中国リスクの対応のため、中国に進出していた中小企業がベトナムに移転する動きもかなり広がってきており、裾野産業の構造も大きく変化していくと思われます。この動向を注視し、ベストの形で拠点展開を進めることが求められます。

② 貧弱な社会インフラ

これも言い尽くされたことではなりますが、道路、鉄道などの社会インフラの整備遅れが顕著であり、結果としてベトナムの物流効率、品質が低く、コストも割高であると言えます。いくら人件費にメリットがあっても、モノをハンドリングするコストが高すぎて帳消しにならないよう、事前に物流面のコストマネジメントはしっかりとやっておくべきかと思います。
都市交通インフラは、現在ハノイとホーチミンで地下鉄を建設中の段階です。高速道路の整備は結構進んできています。一方、電力については産業発展のスピードに発電所の整備が追い付いておらず、まだ6割を水力に頼っているため、水不足となる夏場などは計画停電は恒常的に発生するので、工場のフル稼働も思い通りにはいかないこともあると覚悟する必要があります。

③ 法体系の整備と運用課題が多い

複雑な法律実効性の体系があるため、新しい法律が出ても、決定、省令、通達などが伴わないことで実施細則がないのに罰則だけがあるというようなケースがよく発生します。例えば家電機器の省エネラベル法が発せられたとき、まだラベルの内容の記載項目についての詳細が出ていないのに実施日だけが法律に書かれてあり、その実施日になってラベルの貼られていない完成品の輸入が税関で止まってしまうという笑えない事態も起こる国です (その後通関リリースされたのですが、やり取りしている間に港で止められていた貨物の保管料まで請求されたのにはあきれ返りました)。

実施細則の一貫性が担保されていない問題が発生する原因としては、実務をあまり知らない縦割り行政の役人が、机上で考えた通達をバラバラに発するためであり、省庁間で矛盾する不整合な法律がよく施行されることが起こります。このような内容的にも不十分なものが通達として出てくるので、運用する行政窓口では役人によって判断基準が変わり、通達に当てはまらないケースなどは勝手に判断されたり、それが行政手続きで便宜図るための賄賂要求の温床ともなっています。

これらの問題を避けるには、いろんな方法がありますが、できる限り事前に情報を入手して、パブコメを求めらえたときには、積極的に意見を入れたり、場合によっては省庁に直接面会に行ってコメントを求めたり、どうしようもないときには、日本大使館や商工会に問題を上げて対応していくこともあります。最近では中古機械の輸入差し止め問題がありました。

④ 人材育成がまだまだ不十分

ベトナム人一人ひとりの資質は非常に高いですし、優秀な人も多くいます。しかし、一方で教育の格差もあり、基礎的な社会人としての教育訓練を受けていない人も多くみられます。人件費は低くても、教育コストは余計にかかると見る方が良いと思います。こういった教育機会や経験の不足による能力不足については適切な人材育成のプログラムを構築することが求められます。また、個人主義的な文化土壌から、計画的な仕事の進め方が不得意であり、仕事の進捗確認が甘く、チームワークによる仕事の進め方が弱いこと、またルール遵守意識が欠如しているというマイナスの面もありますので、じっくりと啓蒙活動や研修に取り組むことも、人事管理面でのリスクマネジメントの一つになります。

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