コラム

 公開日: 2016-03-17  最終更新日: 2016-03-18

ベトナム人のマネジメント ~日本のやり方では通用しない点~



現地法人を設立し経営していくうえで、一番大変なのは人のマネジメントです。日本から出向責任者として赴任される場合でも、大抵は組織マネジメントの経験が乏しい方が多いようです。日本では製造責任者か管理部門の責任者としての経験しかないのがほとんどで、製造の若手主任クラスの場合も多いです。しかし、現地に赴任した途端、経営者になるわけですから、幅広い分野でかつ大きな責任を持つことになります。

「私はモノづくりしか知りません」では通用しないのです。言葉もできないのに、いきなり従業員を採用しなければなりませんし、社内の人事管理制度も構築し、従業員の教育、訓練も先頭に立ってやらねばなりません。営業にも、経理にも、技術にも全て精通しなければ会社の経営責任者としては務まりません。大手企業であれば、それぞれの部門責任者が部下として赴任してくる場合も多いので、必ずしも全てに精通する必要がなく、責任権限を委譲してマネジメントすることが可能です。しかし、中小企業となるとそういうわけにもいきません。日本では考えもつかないような問題が日々発生しますし、特にローカル社員の部下をいかにマネージし育てていくか、まさしく社長の腕の見せ所であり、将来の事業発展は人の育成とマネジメントにかかっていると言っても過言ではありません。

少なくとも日本とは違うというポイントを絞って6点ほどお伝えします。つまり日本のやり方をやっていては失敗するという点から整理しています。

① 事前にルールを周知徹底する


当たり前だと思われるのではないでしょうか。しかし、あえて言わなくても常識だろ、ということを思った時点で、もう大きなマネジメントのリスクです。日本人の常識とベトナム人の感覚は違って当たり前なのです。一言でいうと異文化コミュニケーションということになりますが、何をやってはいけないのか、何をやらなければならないのか、ルールを明文化し周知徹底しなければいけないことは山のようにあります。そしてルールを破ったとき、どのようなペナルティーがあるのかということも含め徹底する必要があります。

会社の備品を私用で使ってはいけないというのはわかりますね。しかし、トイレの洗面所で頭を洗うなとか、ごみを床に捨てるなというレベルまでルール化しなければいけないのです。「そんな子供扱いするようなことまで?」と思うのが日本人の感覚です。しかし、ベトナムでは、例えば何か法律を施行するとき、必ず罰則と一体で初めて効力を持つと考えられています。日本の法律でも罰則規定はありますが、有罪となるには厳格な要件が必要ですし、「・・・の策を講じるものとする」というような罰則のない基本法のようなものもあります。ところがベトナムでは罰則のない法律は事実上有効にはなりません。逆に罰金さえ払えば法律に違反してもそれ以上の罪にはならないという感覚が一般的です。よって見つからなければ何をやっても大丈夫という順法意識の欠如とも言えます。何かルールを徹底する場合には、報奨と罰則を組み合わせて遵守させていくという決まりに対する感覚があるので、これは問題だというよりも、ベトナムの意識、やり方に合わせてルールづくりをすることが大事ではないかと思います。

② 仕事は多めに負荷をかける


ベトナム人に仕事を任せる際の鉄則として、最大限のパフォーマンスを引き出すには、2人に対し3人分の仕事を与えることと言われます。2人に2人分の仕事を与えたとしたとき、どういうことが起こると思われますでしょうか。2人は協力して2人分の仕事をやり遂げるようにすることはほとんどないと思います。2人に仕事を与える時点で、必ずどちらかが仕事の主体者になって、片方が補佐的な仕事の位置づけとなって仕事にとりかかろうとします。そうなると上の立場と理解する方は、もう一方を管理しようとしますので、0.5の仕事パフォーマンスしか出さず、残りの0.5でもう一方を管理する仕事をします。そして補佐側に回った方はモチベーションが上がらないので、せいぜい0.8ぐらいのパフォーマンスしか出ないので、全部で1.3ぐらいにしか結果が出ないという事態に陥ります。

また3人に2人分の仕事しか与えなかったとします。そうすれば確実に1人がリーダーとなって、自分自身は仕事せずに、残りの2人に2人分の仕事をさせようとするのがベトナム人の行動パターンになります。余った労力で新たな付加価値を創造しようとする自発的行動はほぼ期待できません。

ところが2人で3人分の仕事で負荷をかけたとします。当然その実力値では、3人分の仕事をやり遂げることができません。しかしベトナム人は根が真面目ですから、何とかやろうと努力します。片方がリーダーに回るような余裕はないのはわかるので、自然とお互いが協力して3人分の仕事にチャレンジするわけです。結果として、2.5以上のパフォーマンスを出すことが多いので、人を育てていくうえでも、研修での負荷のかけ方などの工夫が必要です。そしてもし3人分の仕事を2人でやることができたとしたら、思いっきり褒めて、目に見える形で報奨を与えれば、さらにモチベーションが高くなります。日本では全く通用しないやり方ですが、郷に入っては郷に従え、人の育て方も違うのです。

③ 競争心を引き出す


私がベトナムでまずびっくりしたのが、社員がお互い競争して勝ち抜くことに異様なほどの情熱を傾けている姿でした。もちろん、仕事のパフォーマンスを上げて、他の社員よりも多く給料が欲しいし昇格したいという思いは全員が強く持っています。会社に限らず学校においても、人より良い成績を上げることで競争することに喜びを感じています。人よりも少しでも良い生活をしたい、偉くなりたいという気持ちは、日本では逆に恥ずかしいという感覚があり、競争に負けた弱者の気持ちに配慮しすぎるところがあります。ベトナムでは良しとされており、競争をあおることが多く、それが国としての活力を引き出していると言っても過言ではありません。

会社においては、例えば部門別に「5Sコンテスト」とやるとすると、全員異様なほど熱狂的に取り組み、自分の部門が一位になると小躍りして喜びます。仕事だけでなく、年末パーディーでの部門別カラオケコンテストや、出し物コンテストをやると、その準備に何日も前から取組み、終業後も必死に練習しています。その熱意を仕事に少しでも生かしてほしいと思ったことはありますが、子供じみたところがあるものの、それがかえって真摯な態度で物事に打ち込む姿は素晴らしいと思いました。この競争心をあおりすぎることはどうかとは思いますが、うまくモチベーションを引き出す方法として、人材育成に活用できると思います。

④ 明確な個人への利益を提示する


一般的に外国では、日本人以上に給料や待遇などに敏感です。むしろ日本人の方が待遇よりも仕事のやりがいの方をより重視する傾向があるように思います。特に自分の仕事に対する評価がきちんと待遇に反映されているか非常に気にしますので、人事評価と昇給、昇格については細心の配慮でのマネジメントが求められます。人事考課面談には相当の時間をかける必要があり、昇給額や昇格については双方で納得するまで話し合い、将来のキャリアパスや目標について共有していくことでモチベーションを高めて、人材が育っていくのが理想の姿になります。

特に、ベトナム人は仕事の上下関係に伴う権限の範囲を非常に気にします。3人に2人分の仕事を与えると一人が管理する場に立とうとすることからわかるように、権限イコール自由にできる権利の範囲という個人利益と見なす傾向に注意しなければなりません。 つまり昇格は昇給よりも大きなモチベーションになるのですが、うまくコントロールしないと他の社員のモチベーションダウンにもつながる可能性もあり、組織バランスを崩さないようにしなければなりません。

昇給、昇格とともに、ベトナム人のモチベーションに有効なのが研修派遣です。 ベトナム人は非常に勉強好きで研修に対する取り組み姿勢も高く、人が育つことが企業発展の礎にもなりますので、研修プログラムについては、外部のアドバイスも入れながら内容を詰めていくべきでしょう。特に、ベトナム人にとって一番モチベーションが高くなるのが日本研修です。もともと日本に憧れをいだきながら入社されている方が多いため、その日本に研修に行かせてもらえるということは、個人にとっても大きな利益の一つになりますので、うまく活用していくことをお奨めします。

⑤ 問題への早期対処(信賞必罰)


組織運営では様々な問題が日々勃発します。ルールとペナルティの周知徹底について述べましたが、不祥事が発生したときには、ルールに即して極力早く対応することが求められます。「泣いて馬謖を斬る」ということわざがあります。ルールを守るということの厳しさは、上下隔てなくできる限り早く対応するべきで、日本人社員や幹部社員に甘かったり、処分をずるずると引き伸ばすと、社員は誰もルールを守らなくても大したことではないと考える職場風土が広がってしまいます。ベトナムでは不祥事への罰則だけでなく、報奨制度もきっちりと整備し、実績を上げた社員には徹底して褒めて賞を与える、社長自ら食事に招待するなど、褒めて育てることにより、社員全員が次は自分が褒めてもらうというモチベーションが高くなります。日本人はどちらかというと褒めらえると何か恥ずかしさを覚えるところもあったり、他の社員から妬みを受けたりすることがありますが、海外では日本人の感覚よりオーバー目の信賞必罰が必須であると言っても良いと思います。

⑥ 女性の能力を最大限に生かす


女性が優秀で強いベトナムならではですが、いかに女性の能力を最大限に生かすことができるかということが、会社の成長に欠かせません。若い人が多いということは、当然子供が多く生まれます。会社では多くの妊婦が働いているのが普通の姿であり、職場にもよりますが、9割が女性の管理部門や工場などでは、常に5人に一人ぐらいの割合で妊婦がおられます。妊婦には母性保護の観点から人事管理でも配慮が必要ですし、産休は6か月が法律で定められています。つまり、2割の人が常に半年産休に入っていることから、その欠員状態をいかにして乗り切るか、その期間にアルバイトで対応したとしても、アルバイトをどう教育訓練するか、また戻ってきた女性社員に仕事をどう配分するか、このあたりのハンドリングは大変難しい課題です。最近では出産の直前まで出勤する女性が多いので、いきなり6か月不在になるので、どう周囲がカバーするか予めうまく回すように検討しなければなりません。

日本では通常起こり得ないような人事管理上の課題がよく起こりますので、日本のやり方では通用しないということは肝に銘じてマネジメントを行うことが求められます。

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