コラム

 公開日: 2016-03-23 

海外事業での人事労務管理の留意点


海外事業経営で一番苦労するのは人事です。一般に経営資源は、ヒト、モノ、カネ、情報と言われますが、ヒトは経営資源の中でも最も入れ替えが難しいものです。ヒトを育てるには時間もコストもかかります。ビジョンも事業戦略も、立案、実行するのは人であり組織です。カネがあればヒトもモノも情報も手に入るので、一番重要なのはカネであるという経営者も多くいます。しかし、ヒトの能力や優劣はバランスシートでは全く読めません。企業間の競争力はほんの少しの差が要因になっており、その要因の根本はヒトなのです。確かに給料を出せばヒトは集まります。しかし、そのヒトの潜在能力やモチベーションなどはなかなか面談ではわかりません。高い給料を出しても優秀なヒトを採用できるとは限らないですし、しかも人的資源は企業の組織文化を左右しますので、いったん形成された組織文化を変革するのは容易ではありません。

特に海外事業では、日本の常識が通用しないことは今までのコラムでも何度か述べておりますが、人事労務管理にその常識の違いが典型的に表れてくるので要注意です。実際現地で苦労する項目についてあげてみたいと思います。なお、これらはベトナムに限ったことではなく、比較的日本以外ほとんどの国で留意するべき項目になります。

就業規則


当然のことながら就業規則や雇用契約については、各国の人事関連法令により留意するべき点が異なります。それぞれの法令に準拠した就業規則が必要となります。日本の就業規則を現地版に焼き直すのではなく、現地の人事労務コンサルタントからのアドバイスを受けながら現地に即した就業規則を作り、法令に基づき届け出が求められます。

特に留意するべき点として、解雇手続き、条件がきっちり押さえられていること、また同一労働同一賃金(日本以外では通用しない通勤手当や扶養家族手当に注意)、退職金制度、年休制度、産休、医療保険制度などです。また国ごとに特有の福利厚生関連規定(食事提供など)を含め、現地法人設立の初期段階で策定が必要です。日本のやり方をそのまま踏襲して制度化するのは危険です。現地の国民性、風土、習慣を尊重した制度を構築していくことが求められます。

日常管理


規則に沿って厳しく管理することだけでは職場が疲弊します。しかし、規則、ルール遵守の職場風土を醸成し定着していくために、職場での一体感、コミュニケーションの徹底を柱に日常管理に取り組むことが求められます。一方、ルールはルールとして信賞必罰を徹底するためにも、公平性と透明性確保、上司からの説明責任を果たすべく評価者訓練も重要なポイントとなります。

新興国での事業は賃上げが当然のこととして受け止められていますので、人事管理における業績評価とベア、昇格のマネジメントは重要です。同時に労働組合対応、ストライキ対応はいったん火が噴くと大きな問題となる可能性がありますので要注意です。

計画的人材確保と育成


新興国の中間管理職層の人材は、転職によるキャリアアップを目指す傾向があり、特定のローカル幹部社員に依存した経営を行っていると、キーパーソンが退職したときのダメージが大きいため、不断の幹部人材の確保、育成を計画的に推進しなければなりません。とりわけ中小企業では人材を層として確保する余裕も少ないため、いきなりローカル幹部から退職を告げられ、どうしようもなくなって困り果てている企業もあります。

ローカル幹部社員は経営の現地化推進の要であり、定期的に交代する日本人出向社員よりも地元に密着した経営を継続していくために重要な人材です。そのためにも幹部社員の人材育成計画を綿密に立て、研修の機会を与えるとともにキャリアアップを確立していくことが求められます。

また、中小企業では出向社員の言葉の問題から、日本語が話せる人材を幹部社員として採用する傾向がありますが、通訳人材的として便利屋的な扱いをして育成の努力を怠っていると、ある日突然会社を去ることも起こるため、その時点から社内コミュニケーションが成り立たなくなる危険性を孕んでいます。日本語が話せる幹部人材を社内コミュニケーションの要にしていると、その社員の意見や問題点に関する情報が、その幹部社員を通じて以外には上がってこなくなる問題もあります。幹部社員本人が職場風土の問題の根源であったときには、ほぼ問題が顕在化しません。本来は日本人出向経営責任者が語学をきっちり勉強して、直接社員全員とコミュニケーションできるようにするのが理想ですが、ベトナム語は極めて難しい言語であるため、少なくとも英語を社内用語にする努力が求められます。社員も英語を勉強し、日本人も話せるようになることが肝心です。無理と思われる企業も多いと思いますが、その分の経営リスクを十分に認識するべきでしょう。

職場の活性化 ~良好な組織文化の醸成~


これは国によって若干異なりますが、ベトナムでは家族・個人主義的な考え方や集団主義的文化の踏まえた組織文化を構築していくことが求められます。ベトナム人は一般には次の二つの点について喜びを特に感じるようで、これらを踏まえた職場文化を醸成していくことが有効です。

① 仲間で結束して行動することに喜び

家族・個人を大事にする文化的土壌から、転職のハードルは低く人材の流動性は高いのですが、会社に対する忠誠心は薄くとも、会社の同僚は家族と同じという意識が高いのは驚きです。ある面、私生活まで連帯感で結ばれている日本の中小企業文化にマッチしている感じです。そのため、懇親会や誕生会、運動会や年末パーティ、社員旅行は非常に重要なイベントです。社員はその準備となると非常にモチベーションが高くなります。会社が一丸となって取り組む組織文化の醸成に直結するため、トップ自ら奨励して予算もきっちり組み込んでいくことが大事です。もちろん全額会社負担で日本人社員の出席は必須です。

② 競争して勝ち認められることに喜び

以前のコラムでも触れましたが、ベトナム人は団体コンテストや表彰に異様なほどの興奮とモチベーションを覚えるようです。そして競争して勝ったとき喜びを爆発させるのですが、勝った人や表彰する人には表彰状のような単なる名誉よりも、たとえ少額のキャッシュや食券とか記念品とか形にすることで達成感を得ることに大きな喜びを感じます。日本人には違和感がありますが、「目標を与え、競争させて褒めて育てる」ことにより、人が育ち職場が活性化するのです。

日本とはかなり違うので、日本人出向責任者は相当戸惑うところが多いのは仕方がありません。ただ、日本も戦後復興時や高度経済成長時代には、同じようなモチベーションを持って、一生懸命働き、少しでも暮らしを良くしたいと思って頑張ってきた歴史と、今の新興国の状況は非常に似ていると言われています。そう思えば日々発生する問題も受け入れることができますし、解決策も見えてはずではないでしょうか。

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