コラム

 公開日: 2016-03-24 

海外フィージビリティスタディの基本


企業が海外展開する際には必ずフィージビリティスタディを行います。企業が投資をするわけですから、その投資を行ったことにより長期的に収益を上げ、投資回収を行うことができるかどうかの経営判断ができる客観的な材料を取りまとめ、総合的に評価する事業化可能性調査のことをフィージビリティスタディと言います。

海外展開するのはコスト対応力を高めるためというだけで出ていくのは非常に危険です。海外に投資するということは、事業を立ち上げ、利益を上げるようにして、きちんと投資に見合うキャッシュが戻ってくるという視点が欠かせません。つまり投資回収が本当に実現できるのかどうか、投資を上回る現金回収を実現できるまでに何年かかるかという資本収益性の感覚なしに出ていくというのは経営者として失格かと思います。海外に進出して何とか赤字すれすれの事業をやっていて、いつまでたっても配当できないどころか、内部留保を確保できていないような事業では意味がありません。事業投資ではなく金融投資や銀行預金していた方がずっとましということになります。キャッシュをどれだけ回収して、どれだけ早く投資資金以上のリターンを確保できるかどうかに事業の成否がかかっています。そのためにも、これから海外展開しようとする際には、事業可能性調査であるフィージビリティスタディが必須であり、別名投資回収可能性調査ともいえるわけです。

海外フィージビリティスタディが重要な理由


日本で新たな事業投資を行う際には、ある程度の内部環境分析と外部環境分析についての情報はつかめている場合が多く、リスクという点ではいわゆる「想定外」というものはあまりありません(もちろん認識の甘さによる見込み違いがありますが)。しかし、海外展開となると、日本とは異なる商習慣、国民性、文化、言語、宗教、法制度がある中で、海外展開の可否とリスクの存在を見極め、進出す際の経営判断の根拠を明確にすることで、事業投資の成功確率を高めるために必ずやらなければならないものです。

特に中小企業は総じて経営資源が限られていますので、投資の成否が企業経営の根幹に影響を及ぼす可能性が高いと言えます。一つ間違うと本体の経営を揺さぶることにもなりかねません。ある程度の大手企業で多くの海外拠点を経営しているところでは、一社や二社の経営が立ちいかなくなって撤退せざるを得なくなっても、すぐに企業全体の経営危機になることはあまりありません。しかし、中小企業が海外展開するときには相当のリスクを十分に理解したうえで、それこそ命がけで出ていくという覚悟が必要です。特に、リスク分散や多角化戦略で出ていくというよりも、本体事業そのものに直結したビジョン、経営戦略と海外展開が一貫していることが重要です。

また海外展開するにあたり、社員や取引先などステークホルダー全員の協力が必要であり、経営者としても何故海外展開なのか説明責任を果たせるためにもフィージビリティスタディは重要です。

海外フィージビリティスタディの活用


もちろん経営者自身が、海外展開の投資を実行するのか、それとも中止するのか。最終経営判断を行うために必要であることはいうまでもありません。それだけではなく、海外展開の資金調達を進めるためにも金融機関にも融資を判断してもらうためにも必要です。金融機関の判断基準は、きちんと返済できて投資回収できるかどうかに絞られます。

一方、海外展開では事業ライセンスを取得するためには、進出先の監督官庁から投資認可申請用に事業概要を収益性や雇用創出の点などから説明を求められますし、もし現地の出資パートナーと合弁で行うにも必要であり、また全社を挙げて進める海外展開であるため、社員全員に納得してもらって協力体制を構築することにも活用されます。

フィージビリティスタディの具体的進め方


決まったフォームや雛形はありませんが、基本的なステップとしては、①現状把握、 ②資料で行う国内での予備調査。 ③現地でのフィージビリティスタディ調査、④事後調査と事業計画の策定、⑤実現可能性の判定、意思決定、というように流れます。

①現状把握
通常、経営ビジョン、ミッション、経営戦略から海外事業展開の意義を見極めることから出発します。そのうえで、経営資源である内部環境要因を分析し、市場動向や競合状況など事業機会という観点から外部環境要因分析を行います。

②資料で行う国内での予備調査
現状把握から基本的な海外事業の目的、事業戦略の策定を行い、環境要因を確認すると同時に投資可能性の検討を行います。その検討から第一次海外事業計画策定として、販売計画、生産計画、設備投資計画、人員計画、資金計画などから財務計画を含めます。この時点で事業として収益が見込めないことが明確であれば、それ以上の検討は無理になります。

③現地でのフィージビリティスタディ調査
最初の事業計画では、あくまで日本側で想定した条件のみが反映されていますので、実際現地を訪問して一つひとつ検証していく作業が必要です。立地の見極めから、事業認可手続きの確認、販売チャネルや市場調査、材料調達先の確認、人材採用の課題や経営体制確立のための準備事項、会計・弁護士など支援体制の確認などを進めます。

④事後調査と事業計画の策定
現地調査を行うことで、当初考えていた状況と異なることが多く出てきます。つまり最初の事業計画案から前提条件を修正する必要が出てくるわけです。一番大きくずれてくるのが販売面の問題です。海外展開で最も重要なのが販売の見極めです。現地に行けば何とかなるということはありません。最初から販売先を確保できるような事業でなくてはすぐに行き詰ってしまいます。現地で調査したら予想以上に価格が厳しく、当初予定していた販売数の確保が厳しくなるということがあります。この時点で、絶対に組み込んでおかなければならないのは撤退基準です。海外展開してから販売を確保できずにずるずると赤字を続け、日本から資金を投入し続けることになってしまいますと、どの時点で見切りをつけてよいかわからなくなります。事後調査では必ず損益の最悪ケースを含めて想定し、何年後に損益分岐点を超えるのか、そのための条件は何か、もし最悪のケースを割ることになった場合にどう決断をするかについて、最初の時点で決めておくことが重要です。

⑤実現可能性の判定、意思決定
事後調査後に前提条件を変えて策定した複数シナリオでの事業計画を詳細に策定します。その事業計画で実現可能性を判定するため、財務諸表の修正を行い、複数年にわたる収支見通しとキャッシュフロー予測による投資回収の見極めを行い、実行計画書(ロードマップ)を作成して最終意思決定を行うという段取りで進めます。

いったん海外展開した後は、そう簡単には引き下がることができません。海外ではそれこそ毎日が想定外の連続ですので、腹を決めて進めるためにも、意思決定までには慎重な検討が求められるわけです。

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