コラム

 公開日: 2016-03-28  最終更新日: 2016-03-29

海外会社で注意する不正行為


新興国の海外会社では様々な不正行為が発生する可能性があります。多くがお金絡みのもので、日本人の出向社員が現地に赴任してまず面食らう問題です。日本では滅多に起こらないことばかりですが、新興国では常に起こる土壌があることを理解しなければなりません。就業規則にきちんとやってはいけないことと明記して懲罰規定も必要です。それだけではなく、不正行為が起こらないような社内管理のしくみを整備することと、社員教育を徹底していくことを同時に進めなくては有効な対応策にはなりません。

新興国でよく起こる不正行為の実例と対応策について述べたいと思います。ただ、これらの実例は私がベトナムで勤務していた会社で発生したものではありません。いろんな企業からお伺いした情報をまとめたものですので、その点は誤解されないようにお願いします。

現地経営幹部による不正行為


海外ではポジションによって権限と責任が明確になっていて、複雑なマトリクス組織でどこに責任の所在があるかわからない日本と違って、自分のサイン権限の範囲については非常に敏感です。ベトナム勤務時代にGMポジションのスタッフの採用面談したときのことです。面談に来た人はある国営企業に勤めている人で、質問があるか聞いたところ、「私の決裁権限の金額はいくらか?」と言うのです。「出金に関する決裁者は1ドンでも社長決裁です、どういう意味ですか?」と答えたところ、その国営企業では自分が自由にできる決裁上限があるとのことで、どうも裏金を使うかどうかも、決裁上限以下であれば自分で決められる権利がポジションに与えられていることのようでした。それが国営企業の感覚であれば、越権行為による自己利益誘導など日常茶飯事というのは頷けるところでした。

ただ問題は現地社員だけでなく、日本人出向社員自身も日本からもプレッシャーや税務問題から粉飾決算の不祥事を起こす可能性もあるとの認識も必要です。

架空取引先への買掛金支払い


取引先の数が増えていきますと、注文書やインボイスの全てをきっちり管理することが難しくなってきます。その間隙をぬって架空の請求書が処理に回され支払ってしまう不祥事が発生することがあります。まさしく業務横領そのものなのですが、従業員が直接横領するのではなく、架空の請求元と結託しているのですぐには発覚しにくいのが難点です。支払い処理と現物確認を複数の管理者でチェックするなどの防止対策が求められます。

リベート受領


購買担当者がよく起こす不祥事です。納入業者からお土産とか便宜とかの延長線上に、個人的にリベートを受け取るいわゆる商業賄賂にあたるもので、まさしく業務上横領で懲罰対象であることは就業規則にも書かれているのが普通ですので、従業員は悪いことだということはわかってはいます。しかし、あまり罪の意識がなく、目の前にお金を貰える機会に遭遇すると、後先考えずに思わず手が出てしまう人が多いのが実態かと思います。購買では必ず相見積もりを取ることをルール化し、担当者(またはマネージャー個人)一人のサインで業務が進まないよう、ダブル、トリプルのチェック体制を構築しておくことと、できれば業務担当を定期的にローテーションすることも防止策の一つです。

架空従業員への人件費支払い


交代制勤務などで相当数の従業員を抱え、かつワーカーの移動が激しくて人の入れ替えが頻繁な企業では、給与支払い管理と人事管理が完全に一致しないケースが発生することがあります。人事総務責任者が細かく全て見きれないので、もう退職した従業員に給料が振り込まれてしまうミスはときどきあるのは仕方がない面もあります。ただ要注意なのは、人事担当者が意図的に行い、リベートの形で横領することが発生するリスクです。日本企業はかなり細かく管理できていると思いますが、国営企業では全部で相当数の幽霊職員がいるというとメディアが報じていました。これは仕組みとして防止するべく、人事管理システムと給与支払い業務を連動させて架空社員への支払いが起こらないようにする取組みが必要です。

現地公務員への賄賂


新興国展開で最も悩ましい問題です。この問題については別のコラムで詳しく述べたいと思いますが、日本企業にとってはベトナムの習慣や法律に合わせておけば良いというものではありません。外国公務員への贈賄規制は域外適用されるため、コンプライアンス上非常に注意が必要です。特に、米国のFPCA(Foreign Corruption Practices Act.)海外腐敗防止法は、米国外の贈賄行為に対しても適用されるのですが、米国の証券取引所で上場している企業であれば米国法人でなくても対象となるため、日本法人が新興国で公務員に賄賂を渡したことが発覚したとき、米国の法律で日本企業が罰せられるものです。また日本の不正競争防止法に外国公務員贈賄罪が規定されているため、日本本社の従業員が海外子会社を通じて利益供与を行ったときには処罰対象となるなど、新興国にある海外会社自身の贈賄行為が日本本社や米国法人に多大な影響を及ぼすというリスクがあることは重々承知するべきかと思います。

棚卸資産の横領


いわゆる窃盗です。罪の意識が薄い社員がいるのは困りものですが、物がよくなくなるのは頻繁にあると思って間違いありません。特に注意するべきなのは資材倉庫管理です。製造工程で出た金属屑やハンダなどでも通常はリサイクルして再利用するかスクラップとして換金するわけですが、こういうものを持ち出して自分で換金する従業員もいるのです。公共物でもマンホールの蓋とか電線とかよくなくなっている場合があり、これもスクラップで換金できるためです。盗みが多いのは現地人もわかっているので、監視カメラの設置やセキュリティーチェックをきちんとやっても特に問題になることはありません。日本だとロッカールームに監視カメラが入るとプライバシーの侵害だの社員を信頼していないのかだの大騒ぎする人がいますが、発展段階の国ではそういうこともあるだろうという感覚が常識ですので、物理的セキュリティーとともに教育訓練も同時に進める必要があります。

現金の横領、私的費用の計上


新興国だからというのではなく、日本や他の先進国でも横領事件というのはあります。公私混同というのもありうることです。日本人出向の会計責任者自身が起こす不祥事もあります。しかし就業規則や業務プロセスのルール化を通じ、そういった不祥事が起こりにくいような仕組みづくりと啓蒙活動に取り組むことで、発生を未然に防ぐことは可能です。

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その他にも不正行為はいろいろと起きてきます。こういった不正に対するマネジメントの基本は、不正のトライアングルと言われる3つの要因から対策を打つことです。①動機、②機会、③姿勢(マインド)に常に留意して進めることになります。

① 動機
業績を良く見せたいとか本社からのプレッシャーなどが引き金になったり、個人的な利得を得たいという動機が不正行為を引き起こします。こういった動機に繋がらないような経営管理に着目します。

②機会
動機があっても内部統制や運用がきちっとしておれば不正を実行する機会とはなりません。つまりチェック機能が働いておれば不正機会をつぶすことができます。

③姿勢
不正を思いとどまるには個人の倫理観や価値観に対する教育であったり、企業経営と個人の目標が一致させることで忠誠心を高め、不正そのものを正当化せず実行する姿勢にならないような取組みが必要です。

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