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コラム
公開日: 2016-03-31
不正行為防止のための対応例
不正が起きる要因としては動機、機会、姿勢の三つのトライアングルがあります。会社としては就業規則などルールの明確化と罰則だけでは三要因を押さえこむことはできません。地道な啓蒙活動と不正が起きにくい仕組みの構築を一つずつ積み上げていくことが効果的です。いくつかの対応例を紹介します。
コンプライアンスアセスメントと内部監査による改善活動
コンプラアンス教育・研修というと、ほとんどの従業員は忙しいのに正直面倒だと言います。これは日本人でも現地従業員でも同じです。しかしこれは会社の存立危機にも繋がりかねない極めて重要な経営課題という認識を、全社員が持てるような組織風土をいかにして作り上げていくには、トップ自身によるリーダーシップが欠かせません。トップがこの研修に参加せず人事総務に任せているようでは、その会社はいつかはコンプライアンス事故を起こす可能性が高いと思います。
まずは、コンプライアンス研修を毎年全社員に受けさせ、具体的事例を実践的に学びコンプライアンス意識の定着化を図ることが最も重要です。その研修に先立ち、コンプライアンスアセスメントを実施することで、組織や人の意識のどこにリスクが存在しているのか把握することができ、トップダウンでの方針を徹底することが可能になります。
特に、賄賂や談合など不正競争防止法やFCPAに抵触するようなコンプライアンスリスクは、展開国での問題のみならず、企業全体のリスクに直結するため、法務部門だけが関与するような内部統制だけでなく、地域単位、国単位、法人単位から各部門まで一気通貫でトップダウンによる共通の取組みが求められます。
購買・在庫管理手続きの社内ルールの改善
アセスメントを実施することで各部門の業務プロセスに不正が起きる余地が見つかる場合があります。例えば、販売部門や間接部門では、事務用品の購買や外部サービスの委託などの業務については、総務部門や各担当部門に発注権限が任されていることがリスクとして認識されることがあります。業務プロセスとしては確立されているとしても、承認権限や相見積もり取得基準など第三者によるモリタリングの仕組みが弱いというケースです。もともと日本での業務プロセスをそのまま現地に移行している場合が多いので、必ずしも現地の実態に適しているとは言えません。承認権限の見直しに加え、入出庫管理の徹底による私的流用を防止するための現地にフィットした社内ルールに見直しが必要です。最初は手つかずですが、コンプライアンスアセスメントを行うことでいろんな改善点が見つかるので、PDCAを回して定期的に防止策を強化していくことが重要です。
ソフトウェア使用著作権違反防止のための社内管理
国によって異なりますが、ベトナム人は一般的にまだまだ著作権についての意識が高くなく、町の市場では偽物が横行しています。映画や音楽ソフトは本物が売られているのを見つけるのさえ難しいと言えます。ネットから映画や音楽、カラオケまでほとんど無料でダウンロードして使える環境にあります。ベトナムはTPP締結国として、今後徹底的な知財権保護の対策も行うことが求められてくると思われます。しかし、国民の意識はそこまで知財に対価を払うという感覚が薄く、個人の楽しみでスマホやタブレットにダウンロードするのが普通です。
しかし問題は、会社の事務系部門の社用パソコンに違法ソフトをダウンロードする従業員がかなりの数いるということです。新興国ではシンクライアント化が十分進んでいないですし、安易にインターネットからパソコンにアプリをダウンロードできる環境となっている会社が多いようです。日本企業ではあまり多くはないですが、業務に違法のコピーソフトを使用していると大変なことになる危険性があります。特に要注意なのはソフト使用権の管理が十分でないことから、パソコンの入れ替えや新規ソフト導入時の使用許諾権の購入と実際動いているパソコンが一致せずに、結果として著作権違反になってしまう場合があります。これは日本でも起こりうる話ですが、新興国ではソフトメーカーがニセソフト使用撲滅を警察に取り締まりを要請し、摘発される案件が増えてきていることに注意が必要です。
もちろん、日本の完成品メーカーも市場で偽物ブランドが横行していることに手を焼き、偽物撲滅のために地方政府に働きかけ、共同で販売店を査察して偽物商品を押収してもらうこともあります。ソフトメーカーにとっても同じことで、不正にソフトをダウンロードしているという企業の内部告発などからソフトメーカーが警察に摘発を依頼するケースがあります。ベトナムでは経済警察がソフトメーカーと一緒にいきなり会社に入って査察を行い、社員のパソコンをチェックして違法ソフトがインストールされているのを発見して摘発されたという事例があるようです。ベトナムでは警察や認可当局はいつでも会社を査察する権限があり基本的には拒否できません。当然そういうケースが発見されたときには行政罰が課されるわけですが、そこがまたベトナムらしいところで、その査察官が見逃しをちらつかせながら賄賂を別室で要求してくる(らしい)ケースがあったようです。その要求を受け入れたかどうかは聞いてはいませんが悩ましい問題です。
査察には正直にかつ真摯に対応しなければなりませんが、対応策としては、日ごろから社内のITネットワークを管理している部門が、全てのパソコンにインストールされている全ソフトを記録し、使用許諾権と一致させることに加え、ソフトダウンロードを個人が勝手に行えないような物理的対策と社内ルールの明確化、および定期的な全パソコンのソフト監査を実施することが対応策となります。
窃盗防止のための物理的セキュリティー強化
会社には幹部社員からワーカー、アルバイトまでレベル差の大きい階層の従業員がいます。従業員数が多くなってきますと、全員に社会規範を教育することは困難になってきます。「盗みはダメ」当たり前のことなのですが、どれくらい悪いのかという意識には強弱があります。ルールと罰則だけで縛ることは不可能であり、窃盗事件はどんな会社でも起こりうるものです。保安員が盗みを働いたということもときどき発生するほどです。
従業員を教育訓練することも対策ではありますが、第一義的には物理的セキュリティー強化は非常に重要です。入出門の検査、構内監視カメラの設置(資材倉庫、ロッカールーム)は当然のことです。外からの侵入に警戒するだけでなく、内部による窃盗も監視しなければなりません。しかし、これを強化してもベトナム人社員は不当な扱いをされているとは思わないのですが、注意するべきなのは、日本人社員に対しても同様に検査を行うことです。日本人だけチェックフリーであると、別の意味でベトナム人だけを差別していると受け取られる恐れがあります。
また物理的セキュリティー強化は、窃盗対策だけでなく情報セキュリティー上も必須です。人事責任者が経営トップからの信頼を得られずやむを得ず退職ということになったときに、個人情報を持ち出して外部にリークするリスクも考えられます。、個人情報の保管やアクセス管理においても、ゾーン別入退出管理するなどの物理的セキュリティーは、情報セキュリティーのISO取得時にも求められますし、個人情報などの機密漏えいは現地企業だけの問題に留まらず、企業全体の信用問題にかかわってくる重要なリスクマネジメントの一つになります。
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