コラム

 公開日: 2016-04-01 

海外展開で日系企業が陥りやすいコンプライアンス問題


日本企業が海外展開するときには様々な問題に直面します。具体的マネジメント課題として、最も注意するべきものの一つがコンプライアンスです。法律問題は専門性の高い分野で複雑かつ流動的であるため、ややもすれば法務担当に実務を任せてしまっていたりする場合が多いと思います。しかし、コンプライアンスは企業の存続危機事態に繋がりかねない課題であるという認識が必要です。常にトップダウンでリスクマネジメントの最優先事項として位置づけ、コンプラアンス問題発生時の危機管理マニュアルの整備と日ごろからの啓蒙活動が重要です。

新興国展開において日系企業がよく遭遇するコンプライアンス問題について4つの項目について説明します。この4項目は常に発生するリスクがあり、よく勃発している問題ばかりです。どんなに内部ルールやマニュアルを整備しても避けることは難しい項目ばかりですが、事前準備しておくことで相当リスクを軽減できますし、問題が起こってからの後追いの対応では、解決に時間もコストもかかり、対応がまずければ本社へも飛び火し、業務停止に追い込まれたり、刑事罰や多額のペナルティを受けることにも繋がりかねません。

① 移転価格問題への対応不備


企業が海外に展開が進むと、税務の問題が非常にセンシティブになります。特に、日本の国税当局と展開国の税務当局の間で、税収の確保の点で綱引きが発生します。その典型的な課題が移転価格税制です。特に親子間で部品や完成品などの取引を行っている場合には、その価格のつけ方が大きな問題になります。日本から海外子会社に販売する場合、価格が低すぎると日本の国税が見なしたときには、本来は日本に残すべき利益を不当に海外に移転する寄付行為と判定され、逆に高すぎると展開国の税務当局は、価格操作により海外子会社の利益を低くして課税を逃れていると見なされ、本来あるべき利益はこうであるというように一方的に見なし課税されるのです。

その他技術援助契約やマネジメントフィー、ブランド、特許等無形資産の提供対価など、親会社が配当以外にロイヤリティの形で回収する際や、親子間の金銭貸付の利息にも、展開国の税務当局は相当チェックを入れてなかなか認めないケースもあります。これらはコンプライアンスというよりも国際税務の課題ではありますが、一つ間違うと意図的な脱法行為と見なされる危険性がありますので、基本的な移転価格税制への対応方針を明確にしておくべきでしょう。

② 現地の税制・企業法関連のコンプラアンス違反


税務関連法制で注意するべきなのは移転価格税制だけではなく、日本人社員の個人所得税と源泉所得税の納付であり、外国契約者税(ベトナム特有)やVATの毎月の納税やPE認定など様々な項目があります。しかし税法そのものがきっちりしていなくて役人によって判断が異なるというケースが困りものです。法律に明記されていない場合や、解釈をどうすればわからないときには、会計・税務コンサルを通じて税務当局にオフィシャルレターという形で見解を求め、それが事実上法律の実施細則に準じるものとして扱われることになります。しかし、大抵は税務監査のときに、解釈によって法律違反を指摘されたりする場合が多いので、完璧に法律を遵守することはかなり難しく、ある程度追徴課税や罰金を支払うのも手数料の一つとして受け止めることも考えなければなりません。

税務面のコンプライアンスだけでなく、労政関連でも多くの法律にどう対応していくのかが難しい課題です。就業規則を当然当局に提出するだけでなく、日本の労基局による査察のように、現地でも労働当局による立ち入り検査もありますし、残業時間規制や社会保険の確認とともに、日本人出向社員の労働許可や滞在許可に関する手続き面の対応も要注意です。また認可当局による外国企業の認可と実際の事業の確認や、消防法や環境規制対応などいつでも管理当局が入り込んで査察を行う権限を持っています。完璧にリスク管理を行ってコンプライアンス違反しないようにするのは理想ですが、ある程度現場で指導を仰ぎながら認可当局の顔を立てるということも現実的対応として考えるべきかと思います。ただ、査察時に当局の公務員側から嫌らしい要求があるということも事実ですが、これの対応は別の意味でのコンプライアンス問題になります。

③ 国際カルテル行為


中小企業にとってはあまりピンとこないかも知れませんが、独占禁止法の違反行為として最も罰則が重いものです。最近中国では独禁法で外資系企業を摘発する例が相次いでいます。ただ、ベトナムではまだ厳しく取り締まられてはおりませんが今後の動向は要注意です。一方、EUや米国では国際カルテルに厳しい目を光らせており、たとえベトナムで価格談合のようなことがあって、そのメーカーの製品がEUや米国向けに輸出されていた場合、親企業そのものに懲罰的課徴金が課されたり刑事罰などの犯罪に問われることがあります。中小企業であっても関係のない話ではありません。

カルテル行為で厳しく取り締まられるのは、競合メーカー間の談合による価格協定、生産数量協定や市場分割、またグループボイコットや再販価格維持行為などです。日本でも業界によってはまだまだ談合体質が抜けていないところもあり、発覚すると巨額賠償や担当・役員の刑事罰など国際的懲罰を受けることから、国際市場で事業を幅広く行っている大企業にとっては最も留意するべきコンプライアンス課題になります。

昨今国際カルテルが注目をあびるようになったのは、リニエンシー制度導入による摘発増が背景にあります。つまり先に自首すると罪が軽くなるというものです。談合などが中々表ざたにならなかったのは、非常に狭い範囲で秘密裏に話合いをしていたからですが、カルテル行為の犯罪性についてだんだんと認識されるようになり、企業にとってのコンプライアンスに取り組む社会的責任から社内規則でも厳罰化が進みました。そこにリニエンシー制度が導入されたことで、会社としてカルテル行為の事実が社内通報で把握された時点で、積極的に早く自首する方がリスクマネジメント上からも得策であると考える企業が増えたと言えます。

海外に滞在する日本人出向社員は、日本の独禁法に対する意識が弱くなるという面もありますし、狭い日本人社会の中で割合競合企業同士が顔を合わせる機会が多くなるので要注意です。基本的には競合と同じ席につく会合には出席を見合わせることや、販売先に対する価格維持と理解させるような言動はしないことなど、末端社員を含む全社員にカルテルに関する啓蒙活動は毎年きっちり続けていくことが大切です。

④ 汚職・賄賂


新興国で一番悩ましいコンプライアンスの問題が公務員汚職・賄賂の問題です。日本の不正競争防止法や米国のFCPAの観点からも明確な犯罪行為であることは間違いありません。ただ、黒か白かの二者択一の問題ではないのが新興国での実態です。明らかに黒となるのが、自社の事業に関する許認可権を持っている公務員に直接金品などの便宜を供与することです。たとえ企業側から受注や認可の働きかけをしなくても、公務員側から要求があったとしてそれに企業側がいやいやでも供与した段階で立派な犯罪になります。賄賂を渡さないと失注するということになっても、絶対に受け入れてはダメです。ベトナムであってもそれは完全にアウトです。交通インフラ建設のODA絡みで、ゼネコンと政府の間に入っている建設コンサルを通じて賄賂が渡されたことが発覚して大きな問題となりました。また税務職員も査察で追徴課税の手心を加えるからということで金銭要求してくることがあるように聞きますが、これも支払うとアウトです。結果的に追徴課税よりは安く済んで査察もすぐに終わるみたいですが、発覚すれば企業も摘発される立場になるので、賄賂よりも追徴課税を選択するべきですし、どうしても不服の場合には査察合意書にサインせずに上級の税務総局の審判を仰ぐという方が良いと思います。

中国やインドネシア、ベトナムなどのミャンマーなどでは公務員による賄賂要求が習慣化しています。しかし、完全に黒のケースで摘発された場合には刑事事件や巨額賠償につながる可能性があります。また習慣や常識そのものも政治環境や時の移り変わりで変化していきますので要注意です。例えば中国では、元々法律上は民間賄賂も犯罪ですし、実態として政府役人による賄賂要求が常態化して目立っていました。ところが昨今の中国共産党の腐敗撲滅の取組みにより、どんどん政府役人が摘発されるようになり、最近ではグレーでも危ないといわれるようになってきました。

一方、グレーというのも悩ましいところで、これは認可権限のある公務員による汚職というようりも、下級役人によるタカリに近いものです。ベトナムのケースとして、例えば様々な公的機関での手続き、典型的なものは税関による通関業務ですが、何らかの形で協力姿勢を示せば処理を優先的にしてもらえるというものです。どちらかと言いますと役所手続きの便宜(権限ではなく処理順など)を図るためにいくらか出せというケースです。これが蔓延る原因としては、公務員の給料が安すぎる(最低賃金よりも低い)ため、行政サービスを提供している相手から非合法な形で費用を請求して、それをプールして山分けするというようです。本来は行政サービスとして手数料の体系をきちんと整備してもらえれば済む話なのですが、公務員、民間問わず。習慣的にサービスを提供する相手から何らかのお礼を貰うというのが当たり前となっているからです。よって公務員側に全く罪悪感がないですし、中国のように一部の高級役人が私腹を肥やしているわけではないので、内部告発も起きにくいのが厄介です。米国FCPAでもこれを汚職と呼ぶのではなく、Facilitation Cost (促進費・簡略化対策費)という位置づけにしているようです。厳密にいえば汚職には違いないのですが、何か融通してもらったときにはお礼をするという贈り物文化の考え方が根付いている国なので、世界の常識に追いつくにはもう少し時間がかかりそうです。しかし、コンプラアンスのマネジメントとして、これにも一切の便宜供与はしないというのも企業としての姿勢になりますので、それぞれ各社で方針を明確にするべきと思います。

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