コラム

 公開日: 2016-04-05 

ベトナムでの公務員とのお付き合い


ベトナムでは日本企業にとって賄賂はコンプライアンス上の悩ましい問題ですが、ベトナム人自身も違法行為であるという認識を持っているため、表立って口にすることは憚れます。日本企業もできればこの問題を避けたいと思っているところがほとんどであり、これをうまくやって政府案件の受注や事業拡大につなげたいと考えている不埒なところは非常に少ないと思います。

ただ、この問題は発展途上国では少なからず蔓延っていることは事実であり、ほとんどが要求する公務員側の姿勢に耐え切れず、また多くのベトナムローカル企業や外国企業が支払っていることから、やむを得ず対応しなくてはならないということもあるようです。しかし支払った時点で贈賄行為であることには間違いなく、どういう形にせよ摘発されてしまえば犯罪となり、個人的にも法人としても大きなペナルティを覚悟しなければなりません。

しかし悩ましいのは、外国企業がベトナムで行う事業は全て許認可事業であり、公務員とのお付き合いなしに事業が進められない仕組みの中にいるということです。賄賂についても、黒か白かという二者選択の話ではないということも理解しなければなりません。いわゆるグレーゾーンと違法行為としての賄賂は明確に違うので、何でもかんでも全て潔白でなければいけないということではないと思います。

本音と建て前


日本政府とベトナム政府の間で、ベトナムの投資環境を改善していくための協議の場として、「日越共同イニシアティブ」というものがあります。既に10年近くの対話の枠組みとして機能しており、通関手続きの改善や様々な規制問題への課題提起などを進めており、結果として日本企業のベトナム投資拡大に寄与してきたと思います。その中で、何度かイニシアティブの討議課題で賄賂慣行の問題が取り上げられたことがありますが、これは日本企業からの強い問題認識として、ベトナム側の改善を求めました。賄賂はベトナム人でも100%全員が問題だと認識しています。しかし、賄賂を使いながら賢く生きていくのもベトナム人の知恵であり必要悪だという考えでいます。これを外国人から社会悪だと決めつけられると本音として反発があるのです。こういう公式会合で賄賂が取り上げられると、それは撲滅しなければいけない、だから具体的にどこの組織の誰がどのような要求をしたのか証拠を出せというのがお決まりのパターンです。賄賂を要求する側も用心深く、メールなど書面での要求は一切しませんし、しかも日本人に直接面と向かって要求するのではなく、ベトナム人の幹部の携帯電話に直接ささやくので、ほとんど証拠らしいものは残しません。政府側も証拠があれば具体的に動かねばならないのですが、電話で要求されたと言ったとしても証拠にはなりません。また、その公務員が個人的利益のために要求したのなら摘発もありうるのですが、贈賄した側も返り血を浴びるわけですし、その要求が個人ではなく、組織としての裏金プールであるならば、その後公的機関による業務手続き面で担当者が嫌がらせを受けたという例は相当あるようです。本音は違法行為、しかし建て前をうまく使い分けることで、まさしくアンダーテーブルで企業にたかるということが行われ、政府間協議でも効果のある結果には繋がりにくい問題と言えます。

公務員との交流


外資に限らず企業は公務員とのかかわりなしに事業を行うことは不可能です。ベストは「つかず離れず」でうまく付き合っていくことが重要ではないかと思います。公務員は全てが裏金を要求しているのではありません。企業側から事業内容な業績動向など適宜情報提供を行うとともに、ベトナムの国、地域社会にどう貢献していきたいかという姿勢をPRするだけでも非常に関係が良くなり、お互い信頼関係ができてきます。普通、行政サービスには対価は必要ですし、通常は税金なり手数料なりで賄われるものですが、徴税システムが不十分であったり、手数料もコストに見合っておらず、公務員の給与が極端に低いことが賄賂要求の温床となっています。この情報交流というのは行政サービスではなく、企業からの自発的情報提供を通じて支援してもらうことに繋がりますので、積極的に活用するべきかと思います。

常に取り締まる側である税関や税務当局、警察、消防などとの付き合いが一番難しいのですが、計画投資省や商務省、人民委員会や工業団地管理局などには、何か問題が起きたとき味方になってくれるところですので、情報交流を通じた関係強化が望ましいと思います。

また公務員との会合には食事つきの場合もあります(中国では要注意ですが)ので、慣習上全て避けることは不可能です。頻度が高い食事接待は問題ですが、社内で上限を決めて、あまりずぶずぶの関係にならないよう「つかず離れず」のお付き合いを心掛ける必要があります。またその場でのお礼として現金を渡すのは限りなく黒になりますが、ちょっとしたお土産や記念品などは非常に喜ばれますので、ある程度の贈り物を渡すのも一般的で、いわゆるグレーゾーンとして柔軟に考える必要もあるのではないかと思います。

交際費の社内ルール設定


日本では公務員に接待交際費を支出するのは厳禁ですし、会合時にお茶は出せてもジュースや弁当はダメというように相当厳しいルールがあります。しかしこの常識は日本では通用しますが、海外では贈賄とは見なされない範囲について、国によってかなり違いますし、社会事情によって変化することに注意しなければなりません。中国はこの一、二年で大きく様変わりしました。以前は役人接待なんでもありの世界だったのが、今では汚職摘発が相当進んだため、ちょっとした接待でも違法となり、役人側だけでなく企業側も罰せられる危険性があるので要注意です。

ベトナムでは贈り物をやり取りする文化、慣習があります。お世話になった方に感謝の気持ちを贈り物として差し上げるというのは、日本でもお中元やお歳暮の形で行われていることと同じです。現金を直接渡すのでなければ、テト休暇前の年末挨拶時に取引先や公務員を訪問して、儀礼的範囲でギフトを贈呈するのが普通です。ただ、中国で見られるように、常識的範囲は社会情勢によって変化するため、社内で統一規定を設け、各部門の担当者が個別に贈るのではなく会社として行うのが重要です。複数部門から同一公務員に重複贈呈が行れないよう、予算上限とともにきっちり管理することが求められます。

黒とグレーの境目


一般的なお土産や記念品、年末ギフトなどは、余程高額でない限りいわゆる儀礼的習慣として問題にはなりませんが、お金でなくても、明らかに黒に近くなるものとして考えねばならないのはギフトの目的です。いわゆる自社事業の許認可権に直接関与する公務員に対して高額の贈り物、もしくは現金を渡すのは完全にアウトです。

また、少額の現金を要求されて公務員に渡してしまった場合でも、取り締まり権限のある公務員に違法行為を見逃すことを目的とする場合もアウトです。これは交通違反を見逃す警官であるとか、税務査察の結果に手ごごろを加える見返りで要求する税務官などがその代表的事例かと思います。これはコンプラアインス上も大きな問題ですしグレーゾーンを通り越しています。ただ、ベトナム人の間では必要悪として頻繁に見られる行為のようです。

一方、あまり好ましいことではありませんが、通関業務やビザ関連業務などの申請を早く処理してもらうために、お金を要求されたときはどうでしょうか。これは許認可権限というより、業務促進というFACILITATION COSTとして捉えられると考えられています。処理の順番を前に持ってきてもらう便宜を図ってもらう目的で払うケースがあるようです。本来払いたくもないし鬱陶しい問題ではありますが、一刻も早く通関を終えて輸入しないと製造ラインが止まってしまうケースなど、やむを得ず払ったという企業もあります。しかし、実際これを払って賄賂として摘発されたという事例は聞いたことはありません。つまり許認可権が絡まないとか、違法行為黙認の対価授与に絡まないものは、いわゆるグレーゾーンと一般的には考えられています。(しかし、奨められるような行為ではありませんね)

海外では悩ましい問題が毎日起こります。リスクを最小限にするためにも、事前に弁護士などの専門家や海外事業に詳しいアドバイザーにご相談されることをお奨めします。

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