コラム

 公開日: 2016-04-07 

海外事業における環境対応


企業が海外展開する際に軽視してはならないのが環境課題への対応です。特にEPE(輸出専業企業)としてベトナムに展開している企業は、日本への持ち帰りもしくは第三国への輸出を目的とした事業形態ですので、一番の関心事はコスト削減であり、ベトナムの国、地域社会にいかに貢献していくかというマインドが薄いのは実態かと思います。企業の社会的責任としては、雇用に貢献している、ベトナム企業から資材を調達してベトナムの産業発展に貢献している、利益を上げて納税による貢献などがあげられますが、経営課題としてはコスト削減が優先されるのはある面仕方がありません。しかし、EPEであれ非EPEであれ、外資としてその国で事業を展開させていただいているという立場からすれば、国、地域社会にいかに貢献する事業を行うか、つまり企業の社会的責任を優先する経営が前提でなくてはなりません。社会的責任を果たせない企業は、国、地域社会から支持されず、そもそも海外展開する資格がないと思うのです。まして、国、地域社会に迷惑をかける事業、特に「環境」問題に鈍感なばかりか、環境汚染を引き起こすようなコンプライアンスに問題のある企業は、社会からボイコットされ撤退に追い込まれかねません。

ベトナムに限らず新興国では、経済発展に伴い様々な環境問題が発生しており、社会課題として非常に重視されています。まさしく企業は地場企業、外資企業に限らず環境問題の当事者であり、単に環境規制の義務を果たすだけでなく、社会的課題である環境問題解決に向けた企業としての貢献をいかに果たしていくかという両面からの対応が求められています。製造業だから関係ないとは言えません。小売・流通業やIT事業でも電気やガソリン等のエネルギーを消費して、その国で事業をさせていただいているのです。環境問題に取り組む団体を支援することや、次世代を担う子供たちに環境教育をボランティアで行うとか、地域社会の住民と一緒になって環境保全活動に取り組むなど社会に貢献できる分野は非常に多いと思います。

環境コンプラアンスと環境問題取組みの3つのバランス


海外事業における環境対応では、いかに企業としての社会的責任を果たしていくかという考え方が重要であり、その最優先課題が環境コンプライアンスです。発展途上国でも環境よりも経済発展が重要だという考えは一部を除きありません。しかしCOPなど地球環境全体の取組みになりますと、国ごとのエゴが出てくるため、中国などは経済を優先することが国益と考え、環境保全義務には二の足を踏む傾向がありますが、その中国自身、自国の環境問題でにっちもさっちもいかなくなっています。各国とも環境関連法令による環境排出規制は相当進んでいます。実際ベトナムの排水規制は日本の規制値よりも厳しい項目があります。こういった法令順守は、企業としては当たり前のことであるのですが、残念ながら、ベトナムの企業では役人に取り込んで規制摘発を逃れているケースが少なからずあるようです。しかし、外資企業に対しては厳しい目が向けられており、以前ある台湾系企業が規制値以上の汚染排水を出していることがわかり、メディアに散々叩かれ、政府からも厳しいペナルティが科されたようです。

ただ、日本企業については、過去大きな環境問題を引き起こしたということは聞いたことがありません。これは法令遵守意識に加え、企業の利益よりも社会的責任の方が大事だという日本人の環境倫理規範が高いことがあります。法律の整備による規制強化だけでなく、それを実現できる技術力、そして倫理観の高さの3つがバランスよく確立することによって環境問題の解決の方向性が見えてくるものだと思いますし、実際日本は過去この方法で環境問題に取り組んで実績を上げてきました。こういった日本人のやり方や考え方は海外においても称賛されており、日本に対しては新興国の環境問題の解決に貢献していくリーダーシップの発揮が期待されています。

現在、新興国ではまだ3つのバランスが取れていません。政府の役割としてとにかく規制を強化することが先行します。しかし、いくら規制を厳しくしてもその規制をクリアする技術力、設備、資金がなければ誰も守れません。いくら罰則を厳しくしても規制対応は無理なので、結局規制はザル法となって機能しないのです。そのため、政府は環境技術の導入のために、環境関連投資に対して優遇措置を図りますが、効果となって現れてくるには時間と社会的コストもかかります。そして倫理観の問題、これが厄介で一番難しいものです。いくら法律を整備して実現技術力があっても、利益を優先して環境投資はしたくないという経営者の意識やゴミをやたらと捨てないという国民のマナーなどは簡単に改善するものではありません。これは長期の取組みが必要で、次世代への環境教育などのステップを踏まないとなかなか前には進みません。この環境対応3条件を実現するためにも、日本はそれぞれのステージで貢献できる分野があると思いますし、環境問題は展開国だけの問題ではなく、グローバルな問題として日本にも影響が出てくるものですので、海外展開では避けては通れない取組みとの認識が必要です。

社会貢献活動としての環境対応


環境対応には、コンプライアンスとしての側面とともに社会貢献活動の面からも取組みが重要です。環境問題解決の3つのバランスを取っていくためには、環境保全活動の展開と次世代に向けた環境教育による貢献が効果的であると思います。新興国の社会的課題としては、環境・エネルギー・廃棄物処理・水処理などの環境分野、医療・福祉分野、防災対策、職業訓練・産業育成などの人材育成分野などがODA事業に有益な分野としてあげられています。これら全てに共通するのが科学技術と教育なのです。日本企業はアジアにおいてこの双方で貢献できる唯一の国家ではないでしょうか。特に環境分野における教育活動でリーダーシップを取っているのは唯一日本企業の社会貢献活動かと思います。進出している中国企業にはこのような社会貢献という概念すらないように感じましたし、韓国企業も一部大手企業が日本企業をまねて単発の環境イベントや教育をやっているケースがあった程度です。また、環境を重視する経営を実践し、社会にも活動を発信していくことにより、地域社会との共生に繋がるだけでなく、従業員自身の意識の変化、行動の変化にも繋がることで企業文化の醸成にも好影響が出てくるのです。

環境活動の対外発信


海外事業における環境対応は、自社の活動だけで満足しているのは勿体ない話です。いかに社会的責任を果たしている素晴らしい会社であるかを外部に知ってもらう絶好の機会であり、対外発信は、企業に対する国、地域社会からの信頼感向上に繋がり、ブランド価値形成に直結する重要な取組みになります。コンプラアンスについては当然のことですので、PR対象にはなりえませんが、環境保全活動や環境教育については社会的課題への解決に貢献する企業活動として、積極的にメディア発信するべきかと思います。国や地方の人民委員会でも環境問題への取組みが上位組織からの評価に繋がります。政府機関やNGOとも共同で子供たちと植樹やクリーンアップなど環境保全活動を行うことを提案しますと、環境と教育という二つの社会的課題への貢献活動として、政府機関も積極的に協力してくれますし、かなりのメディアが無償で取り上げてくれる可能性があります。(日本のメディアはそういったことに最早関心がなく、政治家や芸能人のスキャンダルばかり暴いているのは実に嘆かわしいですが)

このように環境取組みは、①対外発信を組み入れたブランド価値向上、②リスクマネジメント、③環境重視の企業文化醸成に直結する海外展開の重要な課題になります。既に進出されておられる企業の方々、またこれから新しく進出されてようと目論んでおられる企業も積極的に取り組まれることをお奨めしたいと思います。

ご要望がありましたら、現地での経験者として活動計画の助言や実践のお手伝いをさせていただくことが可能です。いつでもお声がけください。

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