コラム

 公開日: 2016-04-14 

海外展開計画または実施を中止した理由


海外展開に取り組む企業は事前に十分な情報収集とF/Sを綿密に行い、日本とは異なる海外現地事情を把握した上で、撤退基準を予め決めて、慎重に小さく産んで大きく育てる事業運営を目指さないとリスクが大きくなります。F/Sでは帳尻を合わせるために所謂「たられば」ストーリーを積み上げて、体裁よく事業戦略を描いて海外展開に踏み切り、大失敗をしてしまう企業が相当あります。海外展開は場合によっては本体経営の根幹をも揺さぶるということも考えねばなりません。これは中小企業特有のリスクではありません。長年海外事業経験を積み重ね、海外経営ノウハウを十分に備えている大企業であったとしても、ある一カ国での事業の失敗が、連結経営業績を根底から揺さぶる例は枚挙に暇がありません。グローバル企業であれば尚更のことです。

海外展開は進出ありきのストーリー(場合によっては単なる上層部の思い付き程度)で裏付けのためにF/Sをやっている会社では、ストーリーに合わないネガティブなことやリスクについては過小評価する傾向が強く、結果として「たられば」戦略に基づく意思決定をしてしまうケースが多いのが実態ではないでしょうか。大企業ほど上層部の顔色を窺い方向性を見間違う可能性が高いと思います。

事前にF/Sを十分行う過程においては、企業規模に関わらず外部アドバイザーのような第三者の見方や知見を活用することが結果として正しい経営判断に繋がるように思います。しかし、大企業ほど内向きのエネルギーが強いため、特にスタッフは自分たちのストーリーを是とした戦略を立てがちです。外部の意見を聞くとスケジュールに影響が出たり、上層部の意見と外部の見解が異なったときの内部調整に煩わされることを極端に嫌う傾向が見られます。よって、経営責任者こそ内部のスタッフだけに頼るのではなく、積極的に外部人材を活用して幅広い視野と経験、知見を経営判断に活用する度量が必要かと思います。

F/Sで押さえておくべき点


社内のスタッフのみで検討するにしても、外部アドバイザーの助言を活用するにしても、最終の進出判断基準となる海外展開のF/Sで必ず押さえておくべきことが二つあります。

①ヒト、モノ、カネ、ノウハウの裏付け
②立上げ、事業運営リスク

F/Sできっちり評価することが非常に重要です。しかし、ビジネスですから100%大丈夫ということはあり得ません。何か変なバイアスのかかった評価をしてしまいますと、結果として正しくない経営判断をしてしまいます。そうなると手遅れです。一番いけないのは上司の顔色を窺って、その反応に一喜一憂して海外F/Sで得られた事実のいいところどりをした評価資料で経営判断をしてしまうことです。正確な事実と根拠を踏まえ、その上でリスクを過大でもなく過小でもない経営評価を行うことが求められます。

それには内部スタッフの経験や能力だけで可能でしょうか。幅広い分野からのアドバイザーをF/Sに参画させることが大変有益な結果に繋がると思います。ただ、大手のコンサル会社に依頼すると相当のコストがかかります。しかし、世の中には非常に幅広い分野で特定のスキルやノウハウを持ったOB人材や個人コンサルタントや大学教授などが多くの専門家が存在しています。業務委託の形でそれらの人的ネットワークを活用することができますし、必要に応じてプロジェクトごとに参画してもらうことも大変有益ではないかと思っております。しかもそのコストは社員を採用するより安価で、役に立たなければすぐに打ち切れる短期契約になるため、リスクも少ないうえ経営効果は非常に大きいと言えます。

F/Sの結果海外展開中止となった理由


少し古いデータですが、平成22年度に中小機構が行った「中小企業海外事業活動実態調査」に国際化事業計画または実施を中止した理由のランキングがあります。その上位5項目についてあげますと、

① 需要予測・事業効果予測などが不十分で海外事業を決断する十分な確信が得られなかった : 35%
② 国内で海外事業を推進する人材や海外業務に対応する人材などが十分に確保できなかった : 34%
③ 条件のある現地の投資物資やパートナー(販路・調達先)が見つからなかった : 30%
④ 国内事業への対策が必要となり海外事業を手掛けられなくなった : 30%
⑤ 海外事業の計画や準備に必要な情報・知識が十分に得られなかった : 30%

F/Sの結果で計画、実施を中止と結論づけること自体失敗ではありません。むしろ正しく評価した結果で中止となることは意義のある検討であったと言えます。ただ、①と⑤については、海外F/Sの検討過程に問題があると思われる項目ですので、専門家による支援を得ながら進めることで解決するものと思います。③についてはF/Sの結果、見極められたこととして意義のある項目になりますし、④は海外展開検討とは別要因によるものです。

むしろ悩ましいのは②のヒトに関する問題です。F/S検討によって十分売れる、収益も確保できて事業全体の業績に貢献できるものとして見極められたとしても、それを実践するヒトの確保ができない、海外事業を推進する人材や体制づくりがネックとなって海外展開を中止せざるを得ないというのは中小企業にとっての厳しい課題です。

外部アドバイザー活用による海外展開計画の推進


大企業は長年のグローバル展開ノウハウが社内に蓄積しているところが多く、人的資源も豊富に存在しますので、むしろ海外F/Sの精度を上げ、幅広い視野から経験と知見を生かした外部アドバイザーを活用することにより、海外展開計画、実践の成功確率を上げることが可能となります。

一方、中小企業は海外展開を実践する人的資源が絶対的に不足しています。たとえ海外出向責任者を一人確保しとしても、そのマネジメント能力の向上を高めるとともに、将来の後継者確保、育成も同時に進めていかなくてはなりません。また海外拠点を支える日本側の海外事業推進人材の確保や体制づくりなども大きな課題です。海外F/Sを推進するには、ジェトロや中小機構など公的機関による専門家派遣制度も活用できるのですが、活動範囲や時期、採択条件など制限があったり、専門家との相性や期待する専門分野とのずれなどもあり、必ずしも企業の事情にマッチングしているとは言えません。海外展開を図るうえで人的資源の不足を補う意味でも、外部アドバイザーに環境分析と事業戦略構築から販路開拓、競争戦略、人材確保・育成や組織体制づくりなど一緒になってF/S検討に参加していただくのがベストと思います。大手の外部コンサル会社を使いますと相当コストがかかってしまいますが、海外事業展開経験のあるOB人材や専門アドバイザーが多くいますし、そのネットワークをうまく活用すれば、外部からヒトを採用するよりも安価に海外F/Sを実践することが可能になります。

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