コラム

 公開日: 2016-05-13 

北部と南部のベトナム人気質の違いとマネジメントの留意点


ベトナムは南北に長い国です。また54の民族が共存している多民族国家ですが、そのうちおよそ9割をキン族が占めており、北から南までほぼ全域で中核となっています。しかし、北と南では言葉も違いますし考え方も大きく異なっています。歴史的には各民族は侵略者との闘いに明け暮れてきました。それだけに国としての防衛や国家建設についての団結心は諸外国と比べても相当高いですし、社会主義国として比較的安定した国家、社会であるのは、こういった背景があります。いざとなれば相手はどんなに強敵であっても、戦い抜く強靭な精神力を持っています。大国である中国からの侵略を何度も撥ねつけ、フランスの植民地からの独立を勝ち取り、ベトナム戦争で世界一の強大国アメリカに負けなかった歴史は彼らの誇りです。しかし戦いの歴史の中でキン族は常に同じ価値観を持っていたわけではありません。やはり北と南では相当違っていることを正しく理解することが経営上も留意点となります。

歴史的にも北のハノイは首都であり、南のホーチミンは商都です。地政学上もハノイは中国の影響を強く受けやすく、ロシアとの関係も深い位置づけにありました。一方、ホーチミンは東アジアと南アジアを結ぶ交通路のハブ的な位置づけにあるため、交易が活発で商業が発展してきました。気候もハノイは四季があり、夏は40度を超えて猛暑が続く一方、冬は10度を下回るなど寒暖の差が大きく、冬はどんよりした雲に覆われ滅多に太陽を見ない反面、ホーチミンは常夏の熱帯地域にあるため、乾季と雨季があって冬でも半袖で過ごせるなど、暑さは厳しいものの気分的には開放的になります。こういった違いから、同じベトナム人でも考え方や気質が異なるのはむしろ当然ではないかと思います。日本でも関東人と関西人では大きな違いがあるのは日本人であれば常識ですが、ベトナムもハノイとホーチミンでは、北海道と九州ぐらいの距離があり、道路交通網もあまり整備されていないことから、南北間でも移動も活発ではありませんし、考え方も大きく違っているところに、北と南に分かれて戦ったベトナム戦争の歴史が国民の中でも埋められない溝として横たわっています。

外国人にとっては、日常生活においてその差や溝を感じることは少ないのですが、社内のマネジメントや顧客との関係性で気を付けるべき場面にときどき遭遇します。もちろん、同じキン族ですので民族間対立などといった深刻なものではありません。日常会話やお付き合いにおいて北と南で喧嘩したり憎しみ合うというようなことはありません。ただ、本音のところまで入っていきますと、特に南の人が北の人に対して抱く感情には口には出さないですが複雑なものがあります。外資系企業のマネジメントでは、その気質や考え方、お互いの感情の複雑さを踏まえたうえで、全体としてうまく組織を動かす必要があります。

南北ベトナム人の気質の違い


南北の気質の違いを生んだ要因は、政治・歴史的な環境と気候の違いがあるように思います。私がベトナムに駐在していたときはハノイで勤務し、ホーチミンのブランチなどに出張で通っていましたし、現在の仕事の一つに、JICAの経営塾講師としてハノイ、ホーチミンそれぞれ一週間ずつ研修で指導していますので、北と南の気質の違いをよく感じます。

一般的に北部の人は、協調性が高くチームとして物事を進めるのが南の人より得意であると言えます。もちろん日本人の方が遥かに組織的取組みが得意なのですが、北部の人はよく理解して真面目に辛抱強く取り組めることができます。政治的な社会環境からか、その場合でもリーダーシップを取る人が多く論理的な会話も堪能です。政府関係者など初対面では不愛想な人も多いのですのが、一度打ち解けた関係になりますと深く付き合えるのが北部の人かと思います。

一方、南部の人が北部と大きく違うのは、楽観的な性格で、思ったことをすぐに口に出し、どちらかというと気分屋さん的であり、気前がよくすぐ仲良しになれる人が多いと思います。政治とは遠い世界で、商売で身を立ててきた人の子孫が多く、個人主義的な面が北部に比べて若干強いという印象を持っています。

こういった気質の違いを踏まえますと、北部の人には計画的かつ専門的な分野の仕事を、チームとして進めるのを任せる仕事が一番力を発揮するように思います。南部の人には、人間関係を作って販路を泥臭く開発していくような人付き合いが重要な仕事を任せることがうまくいく場合が多いと思います。

南部の人が抱く複雑な思い


ベトナム戦争後、社会主義国として統一されたわけですが、ベトナム戦争が終結する前から、南部にいた富裕層は米国やフランスなどに移民としてわたり、戦争後も社会主義国の政策に耐え切れない十数万人の人々がボートピープルとして国外脱出を図りました。今、南部に残って住んでいる人にとっては、社会主義国として国家統一を受け入れる一方、北部の人に対してはやはり征服者という感情を拭い切れないのです。口には出しては言いませんが、仲間内ではいろいろと言っているようです。

そういった背景を踏まえて、ベトナムに進出した外資系企業は人材の活用について留意するべき点が多くあります。ベトナムは南北に長い国土ですので、ベトナム国内市場向けに事業を行っている企業にとっては、北部市場、南部市場ともに対応している必要があり、営業拠点も双方に設置するケースが多くあります。また取引先も北部だけ、南部だけということはありません。外資企業にとって一番配慮するべきなのは南部の人の扱いと思います。過去の経験、また知り得る範囲では、南部の人を業務の都合で北部に転勤させようとした場合でうまくいったというのを聞いたことがありません。ほとんどの人は北部に転勤するのなら退職すると言われます。日本やシンガポールへの転勤は受け入れてもハノイへの転勤は余程のことがない限り厳しいと思います。ところが北部から南部への逆方向の転勤は、待遇次第で案外うまくいきます。実際、私の部下だった人も退職して再就職先がホーチミンでしたし、北部での事業に行き詰って、思い切ってホーチミンで新たな事業を立ち上げるべく移っていった人の例が多くあります。しかし南部から北部への挑戦はほとんど聞きません。

もっとも北部でも良いところはたくさんありますし、事業が成功する可能性も高いと思います。私自身はハノイに住んでいましたので北部への思い入れは強いですが、南部の人はあまり来たがらないだろうなということは十分理解できます。どのような場合でも、表向きにはわからないことも多く、政治的側面や感情の奥底にある本心まで見極めることの重要性を改めて感じることが多いと感じています。

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