コラム

 公開日: 2016-05-31 

ベトナム企業が日本企業とのビジネスを成功させるには


私は日本企業のベトナムなど新興国展開の支援を中心にお手伝いさせていただいておりますが、ベトナム現地企業の経営者の方ともお付き合いがあり、日本企業とビジネスを成功させるにはどうしたら良いかとの相談を受けることもあります。毎年JICAのODA関連の仕事で、ベトナム企業の経営人材育成研修で講師をさせていただいている関係上、多くのベトナム企業の経営者とも面識があります。先日、昨年の研修に参加されていた、ホーチミンにある建設電材関連製品の商社を経営されている社長さんが大阪に出張に来られました。久しぶりということで晩御飯一緒に食べましょうとお誘いし、帰国前日の夜に道頓堀のお好み焼き屋にお連れしました。

若い社長さんで頑張って経営しておられ、積極的に何とか日本企業とも取引したいのだけど、需要は確実にあるのは確認できたものの、製品に対する品質要求も高くて、どの販売チャネルからどういうアプローチをしたらよいのか難しいという話がありました。彼からすると私は研修の先生という立場であったので、私の話やアドバイスはどちらかというと上から目線であった感があったのは反省していますが、日本企業での経験者として、ベトナムのローカル企業に何を期待しているのか、どういう点で評価して取引を望むのかというポイントから話をしました。 彼は非常に良い話を聞けたと喜んで帰ったのですが、今回彼と話をすることによって私自身も勉強になりましたし、企業経営の本質とは何かについて改めて考えるところがありました。ベトナム企業が日本企業と関係を築きビジネスを成功に導くための条件というのは、ある面日本企業が海外展開で留意するべき点につながると思いました。

どのような顧客価値を提供できるかを常に考える


この社長さんが扱っている電材製品は、ビルや工場、施設などの電気配線ケーブルをまとめて設置する配電管のようなもので、金属管として日本企業もベトナムでの工場内設備にも多く使われています。ベトナム地場企業では金属の配電管を使うレベルには達しておらず、可燃性の管を使っているため漏電から火災リスクがあるとのこと。日本企業では金属管や難燃性のプラスチックを使っているところがほとんどなので、需要は必ずあると確信しておられました。ただ金属管そのものはごく汎用的なものなので特殊素材や技術を使っているものではなく、ローカル調達で安価製品ということで検討いただくのが精一杯とのことでした。

一般的にB2Bの事業では、調達側の企業はもちろん品質、納期、コストに優位性のある企業から部材を買います。特に建設資材など重量や体積がかさばるものは輸送コストがかかりますし、海外から輸入することになれば、関税コストや通関手続きなどの管理上のコストや納期がかかるので、ローカル調達が圧倒的に有利です。しかも製品単品価格は、日本での調達価格よりも現地メーカー製の価格が競争力があります。したがって海外に進出した日本の製造業は、できればローカル企業から調達したいと思っています。しかし一番の問題が品質です。ローカル企業は求められる品質レベルに合わせることは最低の条件であり、いくら安価な製品を提供できたとしても、不良率が高いというようなものは全く使い物になりませんし、それが顧客側の製品に組み込まれた後、その調達部品が原因で市場不良を出した場合の企業信頼の失墜や、品質対応コストなど莫大な損害を受けるため、品質が最優先課題であることは疑いありません。

それでは品質の要求レベルをクリアして価格対応力があれば、ベトナム企業は日本企業とビジネス関係を築けるのでしょうか? 品質にかかわる調達部材の選定については、多くの企業の場合現地に全て権限移譲されているわけではありません。最終決定権は日本側にあるため、そこにどういうチャネルで製品の価値を訴えていくかということがカギになります。顧客が常に求めているのは、その製品を購入することでどういう価値を新たに獲得することができるのかということに絞られます。
その価値とは部品コスト削減による最終製品の価格競争力の向上かも知れませんし、短納期対応による市場投入時期の前倒し実現で市場優位性の確保かも知れません。また、新たな発想による部品のシステム提供による最終製品の品質向上や機能向上かも知れません。製品ハードだけでなく、使い方やメンテナンス上のメリットを提供して製造革新につながるものかも知れません。そういった画期的な顧客価値を提供できる製品を提案できるのであれば、ユーザー企業側は飛びついてきます。

私も現役時代にはB2B製品の海外市場への販売、マーケティングを担当していましたが、ややもすれば販売増のための検討遡上に上がってくるのは、いつも価格引き下げであるとか、納期前倒しとか、不良対応とかの議論が多かったように思います。本当にその製品仕様が顧客が求めているものなのか、その仕様、品質を実現する価格レベルが客先の求めているものなのか、といった顧客価値を起点にどうあるべきかという視点は欠けていたように思います。

ベトナム企業の彼にも伝えたのは、ベトナム製品だから低価格で提供することだけでは日本企業は評価しないということです。品質は当然のこととして、その製品がどのような価値を顧客にもたらすのか、ということを常に考えて、顧客が解決してほしい課題を解決するソリューション提案という観点からどういう製品を開発し、また組み合わせてシステムとして売り込んでいくことが大事だということでした。これは日本企業でも難しい問題ですが、彼は目の前の霧が晴れたような表情で大変喜んでいました。

信頼される存在であること


もう一つ彼との話のポイントは、日本企業と付き合うには「信頼される存在になる」ことでした。日本人はビジネスでは信頼を一番大事にするということを言いました。海外ではビジネスは条件面の戦いという面がありますが、日本人は信頼できる相手と手を携え、パートナーとしてともに栄えていくという「共存共栄」の考え方に共感を持ちます。相手に対して少しでもこちらが有利になるような条件を引き出して取引したいという人もいるとは思いますが、結局そういった考えの持ち主は、経営者として周囲からも信頼を得ることができず、ビジネスも長くは続かないのが日本の状況ではないでしょうか。

信頼される存在とは、常に相手の立場で考えることができる、取引先だけでなく国、社会、世界の人々に喜んでいただき、少しでも発展や幸せに貢献するために事業をやっているという姿勢を持ち、日々実践しているという存在そのものの価値が企業の理念になっているということだと思います。もちろんビジネスですから何事も問題が発生しないということはありません。納期がトラブることもあります、品質不良が出ることもあります、書類ミスで請求間違いも起こります。しかし一番大事なのはその問題にいかに真摯に向き合い、誠意をもって解決に努力し、何をさておきすぐに駆け付けて対応するという姿勢や行動が、相手の共感を呼び信頼される存在となっていくと思うのです。

お客様のために何ができるか、何をするべきかが全ての企業経営の出発点にあるのは間違いなく、お客様を裏切るような行為、考え方を持っている企業は、存在価値がないどころか貴重な資源を社会からお借りして行っている意味で、社会に対する背信行為そのものです。日本企業の多くが企業理念を大切にするというのはこの点にあります。外国企業は、日本企業と手を携え一緒に発展していこうという姿勢を持つ誠実な態度によって相手側から信頼される存在となり、自然と新たなビジネスチャンスが生まれるのではないかということも話をしました。

彼は私と話ができたことだけでも日本に来たかいがあったと言ってくれたのは大変うれしかったです。彼のような経営者がどんどん生まれることを期待しています。

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