コラム

 公開日: 2016-06-06 

海外法人での人材育成は出向社員の最大の責務


「モノをつくる前にヒトをつくる」、これはパナソニックの松下幸之助創業者の経営哲学の中でも有名な言葉です。人材育成の重要性については、仕事の経験を重ね幅を広げるにしたがって身をもって感じることです。特に海外事業では、人材育成の困難性と重要性は異文化コミュニケーションの側面からも留意しなければなりません。人材が育たなければ思い切って権限移譲を図ることができませんし、結果として日本人出向社員に責任と労力が集中し、日本の親元からのプレッシャーと思い通りにいかない現実との挟間に悩み苦しみます。一人で問題を抱え込む一方で、異国での慣れない生活のため精神的に環境不適応を起こす人も出てきます。人材育成は決して出向責任者一人でできるものではありません。日本の親元と現地法人が一体になって、一人ひとりの能力と育成課題を明確にし、計画的に育成と権限委譲の取り組みを推進することが必要です。そのためにも出向責任者一人に任せっぱなしにせず、組織的にバックアップして推進する体制づくりが求められます。

組織づくりと人材育成

一般的に経営資源は「ヒト」「モノ」「カネ」「情報・ノウハウ」というように分類されますが、この中で最も重要な経営資源はどれでしょうか。それは間違いなく「ヒト」です。「ヒト」という経営資源ほど不確実性の高いものはありません。他の三つの経営資源は、投資に対するアウトプットには高い相関性があります。もちろんやり方次第では期待されたパフォーマンスを得られないこともあります。しかし、「ヒト」の投資ほど難しいものはありません。高い給料で他社から引き抜いたとしても、それに見合う実績を出せる人材かどうかは確実ではないのです。しかし、動機付けの仕方や能力開発によって、経営貢献の度合いに何倍もの差が生まれるのが「ヒト」という経営資源です。この経営資源の難しいところは、育てるには時間と労力とコストがかかるところです。どんなに優秀な能力を持った人材であっても、モチベーションが落ちた環境では経営貢献の実績は全く期待できず、適材適所で能力をさらに高める不断の育成の取り組みがなければ宝の持ち腐れになります。またその人材の能力が高く、個人的にも実績を上げていたとしても、部下のモラルを下げたり、他の人材をつぶすことなどで組織文化を破壊するなど、組織的パフォーマンスを高めることができない人材は存在そのものがマイナスとなることもあるわけです。

組織論では「組織は戦略に従い、人で動く」と言われます。つまりビジョンも経営戦略も、立案、実行するのは人であり、そして組織であるということです。どんなに素晴らしい経営計画を立てたとしても、結果として実績が上がっていないということはよくあることです。どんなにお金をかけて経営コンサルタントに事業戦略のアドバイスを得たとしても、実際にその戦略を実践するのはその会社のヒトであり組織なのですから、環境の変化に全て対応する戦略などは立てられないのは当たり前ですから、経営はマニュアルで行えるものではありません。その不確実性の高い環境に対して最大の実績を達成するには、 能力が不確かでも柔軟性の高い人材が組織を引っ張って適応していくのが一番確実になると思います。つまり「ヒト」こそ最大、最強の経営資源であるといえます。

「ヒト」は入れ替えが難しく自由が効かない経営資源です。役に立たない人材であったとしても簡単には解雇できませんし、適材適所というコントロールは難しいものです。また会社の成長度合いで戦略の方向性が急に変わったからといっても、すぐに確保することはできませんし、採用するにもコストがかかり、採用後の教育訓練など研修にも時間がかかり、実際に戦力として使えるには相当ハードルが高くリスクも大きいといえます。また、組織を構成するのはヒトなのですから、もし他社との競合優位性を確保するために、チャレンジ精神に富んだ組織文化に変革したいと考えてもそう容易なことではありません。

海外での人材育成の責務

海外法人の責任者は、日本の親元から与えられた経営計画を達成するため日々奮闘されています。当然、販売と利益予算の達成で評価されるわけですし、会社が続いていくためには一番重要です。しかし、会社は出向責任者の赴任期間の実績さえ良ければいいというものではありません。出向責任者の責務としては、その会社が継続的に成長していくために次世代の経営者にどうつないでいくかということだと思います。当初は赤字を出したとしても、今後の成長にとって必要な投資は決断するべきですし、特に組織体制の強化と現地人材の育成は最も重要な取り組みです。ヒトが育てば組織力が強くなります。ヒトが育てば権限移譲を進められ人材の層が厚くなります。ヒトが育てば競争優位性が高まります。ヒトが育てば次世代のヒトを育てることに時間をかけられます。私は出向責任者の日々の仕事のうち、半分の時間はどうヒトを育てるかに使うというぐらいの感覚が求められるのではないかと思っています。

現地社員を育成する出向責任者の心構え

現地社員の教育訓練、育成研修の体系をきちんとトップ主導で構築することをお勧めします。その留意点を三つ上げたいと思います。

一つは、人事総務責任者に研修実施を丸投げしないことです。人事責任者ときっちりと人材育成課題を検討し、細かく層別に職種別に必要とする育成項目をどう研修を組み立てていくかをトップ自ら計画立案することです。モノをつくる前にヒトをつくることが大事と認識できるのであれば当然のことかと思います。

二つ目は、日本の研修体系をそのまま導入しないことです。国によって採用している人材の質も専門性も違って当然です。その人材に期待するパフォーマンスレベルや内容も違うため、日本の研修体系のような階層別とかゼネラリスト養成系の研修はマッチングしない場合が多いので注意が必要です。だいたい社内では用意できない専門分野の能力開発が求められる場合が多いため、一人ひとりのニーズと期待値に合わせた内容の個別検討が必要かと思われます。

三つ目は、トップ自ら研修の実施主体となり、社員の動機付けの場として活用して、研修実績でそれぞれ何を期待しているかという発信やトップの思いを伝えることが重要です。この会社にどういう人材が必要なのか、そのために研修参加者にどういう能力をつけてほしいかを明確にしてやる気にさせることです。当然、経営方針として人づくりの大切さを伝えて人材育成予算をきっちりと確保、将来の会社の業容発展に貢献してくれる人材への期待についての思いを伝えてほしいものです。

この記事を書いたプロ

リープブリッジVJ中小企業診断士事務所 [ホームページ]

中小企業診断士 杉浦直樹

大阪府大阪市中央区久太郎町4-2-15 星和CITY BLD御堂ビル6階 御堂筋センターオフィス内 [地図]
TEL:06-7878-6531

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
海外赴任者研修

海外事業の成功には、海外要員、特に海外出向責任者に対する徹底した経営研修が必要です。経営スキルが不足している日本人社員を海外拠点の責任者として赴任させる...

 
このプロの紹介記事
リープブリッジVJ・杉浦直樹さん

海外進出を図る企業を総合的に支援(1/3)

 中小企業診断士の資格を持つ人は、国内に大勢います。しかし、海外に目を向けて、中小企業の立場に立って機動的に一緒に現地へ赴き、全般的に海外展開支援できる独立診断士は、それほどいないでしょう。リープブリッジVJ中小企業診断士事務所代表の杉浦直...

杉浦直樹プロに相談してみよう!

読売新聞 マイベストプロ

みなさまの海外での事業展開を全力で応援します

会社名 : リープブリッジVJ中小企業診断士事務所
住所 : 大阪府大阪市中央区久太郎町4-2-15 星和CITY BLD御堂ビル6階 御堂筋センターオフィス内 [地図]
TEL : 06-7878-6531

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

06-7878-6531

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

杉浦直樹(すぎうらなおき)

リープブリッジVJ中小企業診断士事務所

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
新興国展開での人材育成の注意点
イメージ

中小企業が新興国に事業展開して一番苦労されるのがヒトのマネジメントです。特に人をどう採用し、育てて事業経...

[ 海外事業の人事労務管理 ]

外国人技能実習制度の問題に思う
イメージ

外国人技能実習制度が導入されて約20年になります。しかし、近年では本来の目的とは違った運用、つまり日本で...

[ 雑感 ]

人を大事にする経営は企業の社会的責任
イメージ

先日、「日本でいちばん大切にしたい会社」の著者で有名な坂本光司先生の講演を聞く機会がありました。以前より...

[ 経営戦略 ]

ベトナム進出後の課題に寄り添う
イメージ

中小企業のベトナム進出を検討するにあたっては、ジェトロなどの公的機関の支援制度や大手コンサルタント、会計...

[ ベトナム投資 ]

ベトナムサッカーの歴史的快挙に拍手
イメージ

日本ではあまりニュースになっていませんが、U19のサッカーAFC選手権がバーレーンで行われ、日本は決...

[ ベトナム人との付き合い方 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ