コラム

 公開日: 2016-06-11 

IOTの普及で製造業の何が変わるのか


今、製造業の価値観が根底から覆る外部環境の変化が起きています。特に製造業にとってはその存立基盤が吹っ飛ぶような変化です。IoTとかインダストリー4.0という言葉は最近よく聞かれると思います。あらゆるモノがインターネットにつながることで、工場がよりスマート化するとか、顧客での使用状況をデータをリアルタイムで入手して分析し新たなサービスを提供することなどが思い浮かびます。ただ既に製造現場ではIT化が進んでいるので、単なるそのレベルが上がってより低コストで効率的なモノづくりが実現できるようものと理解している人が多いと思います。そのIoTもドイツが産学共同での標準化を先行して進めていることやアメリカもIT企業を巻き込んで進めているのに対し、日本は遅れているという情報は共有されていると思います。

しかし、このインダストリー4.0、つまり第四次産業革命の動きは、日本メーカーが強みを発揮してきた日本型モノづくりを根本から無力化するほどすさまじい外部環境の変化、しかも大きな産業構造上の脅威であり、日本が生き残れるかどうかの瀬戸際に立たされているという認識が必要だと感じています。具体的には、モノづくりの強みを生み出す源泉が今までとは全く変わってくるということです。その中核となる概念が、「顧客価値のあり方革新」に集約されると考えています。

モノづくりの価値革新の源泉

モノづくりにおいて何が競争優位性を確保しイノベーションにつながるのでしょうか。今までのモノづくりにおいては、①要素技術開発力や効率的で低コストな生産力、②独自の販売チャネル・営業力、そして③他社を凌駕するサプライチェーンの3つのコンピテンスに集約されると思います。これら3項目で少しでも差別化を図ることが、他社を追い落とす競争力につながり競争戦略を構築、実践する観点となります。

しかし、今顧客ニーズの多様化やインターネットの加速によりモノづくりサイドからだけのイノベーション源泉だけでは、競争優位を確保できなくなってきたのです。新たなイノベーションは、「ユーザーインサイト」という顧客側にある価値が新たな革新を生み出す源泉となっているという認識が必要です。顧客が喜ぶ価値をメーカーやサービス提供者がともに創造していく活動そのものが新たな革新を生み出し、競争優位を確保する源泉となるのです。つまり、競争優位を確保するコンピテンスとしては、上記のモノづくり面からの3つに加え、顧客価値をユーザーと共創するコミュニケーション能力が今後ますます重要になってきます。

過去は、企業側が決まった使い方で想定される価値を一方向で提供するのが製造業のビジネスモデルでした。もちろんそのプロセスにおいて、顧客満足を高めるためにサービス提供を行うコミュニケーション能力は求められていましたし、顧客側の声や不満が新たな製品を生み出す源泉ともなっていました。しかし。それはあくまで製品の性能を改善や価格対応していくなどハードでの顧客価値提供にとどまっていました。なお現在では顧客とのコミュニーションツールも発達し、様々な方法で顧客での使い方に関する情報を収集することができ、顧客が求める価値を詳細に分析して、ハードの改善とともに使い方のアドバイスなどを提供することで顧客満足を高めるビジネスモデルに進化しています。例えば、調理家電を製造販売する場合でも、単に機能や便利さ、コスパを訴求して買っていただくだけでは競争に勝つことができず、具体的にどのような調理をすればよいか、またそのハードを使えばより短時間においしい料理を作れるかというように、調理して食事で得られる価値を最大化する提案と一体で販売していくことが差別要因に変わってきました。

しかし、今後IoTが進化するとライフスタイルが変化し、その新たな価値観で調理家電をどう位置づけられるのか、また使われ方を工夫することで顧客にとって価値を最大化することが、メーカーからのみの提案ではなくなってきます。SNSなどでユーザーグループに使い方を委ね、その利用情報をメーカーが共有することで、ともに新たな利用価値を創造していく姿に変化してきます。この動きは一般的な家電製品よりも、よりこだわりの強い趣味の分野であったり、オンラインゲームなどの世界で既に加速しているように思います。

加速する顧客への価値提供革新

やがてユーザーインサイトで生まれる新たなイノベーションは、一人ひとりの価値まで個別細分化していきます。今までのモノづくりであれば、ロットがまとまらないニーズにはいくら対応してもコストが合わないということで葬られてきました。しかし、IoTが加速していきますと、個別受注、個別生産、個別配送が十分可能になってくるのです。購入した顧客が製品を利用して最終廃棄するまでの期間に得られる価値をどう最大化するか、これがモノづくりの究極のテーマとなり、一人単位一個単位の製品・サービスを実現できたところが最大の利益を生む世界が目の前に来ていると思います。そんな面倒くさいことやって利益など出ないと判断した時点で、もうその企業は世の中の変化に取り残される時代がインダストリー4.0の世界なのです。

直近メーカーが取り組んでいかなければならない顧客価値提供革新を実現するビジネスモデルとしては、ハード単体売りからソフトとサービスを統合して個々の顧客へ価値を提供するシステムが考えられます。具体的には、顧客へはハードの単品販売ではなく、システム構築とセット機器販売型へ付加価値を上げていくビジネスにシフトする中で、顧客がそのシステムを使って解決するべき課題についてのソリューションをソフト、アプリとインテグレートして提案することもビジネスとして重要になります。またハード本体は販売してしまうと買い替えまでアップグレードはできませんが、ファームウェアやアプリのバージョンアップにより、利用価値を高めることが顧客満足につながります。また修理、保守メンテナンスサービスまで包括するビジネスモデルを提供することで顧客価値の最大化を図る努力が求められます。今まではメーカーからの一方通行での価値提供だったのが、顧客での利用情報が機器に組み込まれたセンサーからインターネットを通じてリアルタイムに入手できるようになっており、その収集、分析をどう提供価値の革新につなげられるかが競争優位性の源泉となってきます。顧客からの利用状況の情報は個別であるためにまさにビッグデータであり、その情報を分析活用できないメーカーは、他社もしくは他業界が提供するプラットフォームやシステム価値の補完に甘んじることになります。そうなるとメーカーは市場と対話できなくなってプラットフォームの下請けになり、自ら何を造るかを決定できない地位まで落ちることにより、結果として低い収益しか確保できなくなる世界が目の前に来ているという時代がやってきたのです。

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