コラム

 公開日: 2016-07-05 

バングラデシュ事件で海外安全対策について思うこと



先日、バングラデシュのテロでJICA事業で派遣されていた多くの日本人が殺傷されました。大変痛ましいことです。私自身もJICA専門家の一人としてベトナム向けODA事業で人材育成にかかわっている立場から他人事とは思えません。前職でも海外駐在経験だけでなく、一貫して海外事業に携わり多くの国に出張しました。海外でのリスクについては十分認識をしているつもりで、できる限り治安の悪いところへは立ち寄らないように気をつけていました。しかし、テロ対策を個人ベースでどこまでできるかというと大変難しい問題です。多くの企業ではこういう事件が起こると渡航注意勧告を出し、事件の起きた国、地域には不要不急の出張を禁止するという通達が出たり、家族は社命で帰国させるなどの対策を取るケースが多くあります。また外務省からは、欧米人や外国人が多く集まる場所には行かないようにというような注意喚起がなされます。人命が最優先であることには疑いの余地がありません。一方で、日本人が安全ならばそれで良いのか、治安悪化のため日本人全員が引き上げてしまったあと、残された現地社員やお客様はそのままにして良いのかという議論が必ず出ます。テロは憎むべき行為であり、今回のようにその国の発展に貢献する仕事を一生懸命頑張ってこられた方が殺されることほど悲しいことはありません。しかしこういった悲劇を生まないような社会をつくるために、その国、地域に今後何ができるか、何をしていくべきなのかを深く考えさせられます。

私自身は今までバングラデシュとは直接仕事で関係したことはありませんが、いつ何時どこでテロに遭遇するかわからない時代になってきました。先日トルコの空港でも大規模な自爆テロがありましたし、アメリカやフランス、ベルギーなどでもテロが相次いで発生し、タイでもインドネシアでもありました。アルジェリアでの悲劇も記憶に新しいところで、日本人も世界中でテロの犠牲になる事件が多発しています。私が会社に勤めだしてそんなに年月が経っていないころでしたが、コスタリカにある販売会社社長が襲われて殺される事件が発生しました。その社長は大学の先輩でもあり、海外の治安について初めて身近に感じた鮮烈な出来事でした。その後も海外では交通事故で亡くなられたりする方もおられましたし、サーズの感染症拡大の問題で駐在員の家族を一斉に帰国させたり、反日デモで事業場が放火されるなどいろんな海外リスクに関する事件を多く目にしてきました。しかし、昨今のテロ事件の増加に対しては、どんなに気をつけても防ぎようがない不安感を強く感じます。

外務省が出した注意喚起では、外国人が多くあつまる欧米大使館、 国際機関、外資系ホテル、銀行、高級ホテル、 有名レストラン・バー、 カジノ、リゾート施設、ショッピングセンター、鉄道・バスターミナル、 空港、催し物会場、ホテル のロー ・エントランス 、劇場・映画館、 繁華街、スポーツ会場、パレード会場がハイリスクで、これらの場所を避けることがテロに遭遇する確率を各段に下げるとしています。しかしこのようなことは誰でも言えることであって、一応政府として言いましたよ、注意しましたよ、というアリバイづくりとしか感じないのは私だけでしょうか。実際今回バングラデシュで襲われたのは、比較的治安上リスクが低いとされていた有名レストランであって、テロではこのような注意喚起が何の役にも立たないということを実証したに過ぎません。相対的なリスクは低減されるでしょうが、このような場所に近づかないで滞在することはほとんど不可能です。外国人があまり利用しないホテルというのは通常治安レベルは下がりますし、ホテルに籠りっきりでは食事も満足にできません。第一、観光も仕事も何も滞在の目的を達することができず、結局一番のリスク対策は入国しないことになってしまいます。

海外安全は究極的にはその環境を避けることに行きつきますが、完全に避けることによって別のリスクが発生することも考えねばなりません。人命を守ることが最優先課題であり、それを否定するようなリスクマネジメントはありえないのですが、同時に別に発生するリスクを許容する覚悟が必要になります。リスクマネジメントの根幹は、「リスクは決してゼロにはならない」ことの認識と、どこまで対策を打って、どの時点でリスクを許容することかと思います。当然人命に関するリスクを許容するという意味ではありません。ただリスク許容には正しいアセスメントが求められます。実際、サーズの問題が起きたときのことですが、全社のリスクマネジメント方針として、現地駐在員家族を一斉に帰国させる通達が出たことがあります。結果論からいえばそこまでの必要性はなかったのですが、安全対策のマネジメントという観点では正しい判断であったのかも知れません。しかし、一方でアジア各国では単身駐在員ばかりとなり、子女の急な帰国が相次いだことによる現地日本人学校の生徒数急減や、家族分断による子女教育への悪影響など、社員一人ひとりの事情では別のライフリスクが発生したことは否めないのです。

今回のバングラデシュのテロ事件を受け、多くが進出している繊維業界の企業では渡航禁止措置が取られているようです。ある面仕方のないことですが、こういうときであるからこそ、バングラデシュのために留まって何をするべきか考えておられる方も多くおられるに違いありません。同じJICA専門家の立場として、亡くなられた方々もバングラデシュの発展に貢献してきた遺志を繋いでほしいとおっしゃているような気がして仕方がないのです。JICAの専門家やODAに関連する仕事で現地に赴いておられる人は全て、その国の発展を願い国民の生活が少しでも豊かになってほしいとの思いを持って頑張っています。今回の不幸な事件があろうとも、JICAとしての責務にはいささかの揺るぎもないとの強い思いをJICAの理事長もおっしゃっておられましたし、派遣されている専門家、協力隊の全員が心新たに誓いをしているものと確信しています。

合掌

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