コラム

 公開日: 2016-08-10  最終更新日: 2016-09-02

日本企業の労働生産性が低いのはなぜか


日本の労働生産性はOECD34か国中の21位で平均以下という事実を信じられないと感じる方が多いのではないでしょうか。労働生産性とは一人あたりの付加価値額のことを意味します。付加価値は純利益に人件費、租税公課、動産不動産の賃借料と金利を足したものと定義されていますが、だいたい原価と売上の差とかGDPに近いものと考えても良いと思います。その一人あたりの付加価値があのギリシャよりも低く、中でもG7先進7か国では最も低い。アメリカの3分の2のレベルに留まっています。また一時間あたりの労働生産性での同じ21位となっています。日本人は一人あたりもさることながら、単位時間あたりの労働で生み出す価値は相当低い、つまり一言で「働きが悪い」ということになります。欧米諸国に比べると労働生産性は約半分しかありません。具体的には欧米人が一日7時間の労働で生み出す価値を日本人は二日間もしくは毎日深夜の12時までかけてやっと同じの成果しか出せないということを意味します。


この現象は過去20年ほどずっと続いています。GDPの伸びが低いのは先進国であれば当然と思われるでしょうが、一人あたり、労働時間あたりの付加価値がずっと停滞しているのは極めて憂慮するべきことだと思います。しかも今後労働人口が減少していくのは確実ですので、労働生産性が低いままで労働人口が減少すると経済発展に由々しき事態になります。労働人口の減少に対して、女性やシニアの活用であるとか、外国人労働者の導入などが叫ばれています。また介護や保育などの分野での人材確保、非正規雇用の賃金の上昇を促進するような政策が検討されています。賃金が上がることによって消費が活性化されて経済発展に寄与する面はあるとは思いますが、人件費が上げたことによって国際的価格競争力が低下し、企業収益が減少することになれば付加価値の上昇にはつながりません。それだけでは労働生産性は高まらないのです。労働力の確保とともに労働生産性の革新も同時に行わなくては決して日本経済発展は期待できません。

日本人の働きは悪いのか

「日本人は勤勉な国で生産性は高いはずだ。多くの日本人は心身を擦り減らして朝から晩まで懸命に働いているではないか。世界的に見ても日本の労働者の教育レベルも高いし、勤勉かつ忍耐強い。会社への忠誠心も高くどんな仕事でもこなせる人が多い。労働生産性がOECD加盟34か国の中位以下なんて信じられない」と感じる方が多いのではないでしょうか。 しかし、日本の労働生産性の低さは単に働きが悪いから「もっと頑張る」ことで解決できるというものではありません。問題の本質は、日本のせっかくの優秀な労働力の使い方が、非常に非効率で無駄遣いをしているというところにあるのではないかと思います。

日本の製造現場では世界的に有名なカイゼン活動により、優れた工場管理による生産性の高さで経済発展を支えてきました。しかし、労働生産性を大きく損なっている問題は、同じ製造業の企業でもホワイトカラーと呼ばれる研究開発スタッフ、商品デザインのスタッフ、営業・マーケティング部門やいわゆる間接部門のスタッフなどの効率性に起因するところが大きいと思われます。モノづくりをしている段階では、いかに製造現場を効率よく管理し、品質の高い製品を作ることが企業の競争力源泉になっていました。しかし、より顧客が望んでいる商品、付加価値が大きくイノベーションによる新たな顧客価値の提供が不可欠になった今、製造業の間接部門の生産性だけではなく、金融、流通、物流や小売、医療、教育、サービス産業全般の労働生産性が国全体の経済発展のカギを握るようになってきました。

日本の労働生産性の低さの原因

低い労働生産性の背景には複雑なものが多く、何が本質の原因であるかとは言えません。しかし、日本は、過去製造現場以外の人材を管理し、能力を最大限に発揮させるための革新的な組織マネジメントを実施してこなかったため、先進各国と比べても組織、人材の管理や有効的な活用を行ってこなかったことが大きな要因を占めるのではないかと感じています。とりわけ日本の労働生産性の伸びが停滞し始めたのは1990年代半ばから、つまりバブル経済崩壊の少し前あたりからになります。この20年超の間、多くの日本企業は低成長時代の中で様々な経営改革を進めてきました。しかし製造現場以外の改革と言えば、リストラによる人員削減の合理化であるとか、業務プロセス改革(BPR)などが中心でした。具体的には、①正社員の採用抑制と非正規社員、派遣社員へのルーティン業務のシフト、②ERP、SCMなどITを活用した業務効率化、といった制度やシステム、人員を対象としたいわゆる経営構造改革というハード面に焦点を当てていました。このことで一番欠けていたのは、経営の仕組みを動かす「人」に焦点をいなかった点です。日本ではバブル経済崩壊前後から、コストダウンを掲げて賃金を上げずに付加価値における人件費率、つまり労働分配率を低く抑えてきました。その人件費抑制の観点からパートや非正規社員、派遣社員が大量に増えだしたのがまさしくその時期にあたります。この傾向はバブル崩壊後に加速し、低成長が続く中で職場に閉塞感が漂い、非正規社員が増えることで周りに関心を示さず自分のルーティンの仕事に閉じこもりがちな視野の狭い社員を多く生む風土が広がったと思います。従業員をコストとして扱ってきたことが原因のような気がします。会社の利益が上がっても還元はないのですから、当然士気は上がりませんし、非正規社員は創造的な仕事を行う立場でもありません。正社員比率が急速に低下していくにつれて、コストではなく「価値」を生む人が相対的に少なくなってしまい、全体的にみて日本の企業の社員はモチベーションは極めて低くなり、「組織の生産性」の低下が根本的な問題として明らかになってきているのです。

非正規社員比率の増加に加え、他にもさまざまな低労働生産性の原因はあります。縦割り組織間の排他的論理による無駄な言い訳仕事や会議の増加であるとか、労働市場の流動性の欠如やIT技術の不十分な活用ということもあります。一方、昨今ではパワハラが問題となっており、管理職社員に対する教育訓練の不足も顕著になっていることも大きな要因かと思います。パワハラで問題を起こす管理職社員の存在は、労働生産性をマイナスに働かせますし、非生産的な職場風土を生み、その下では「価値」を生む創造的能力を持った人材を育成することがかないません。

つまり日本の労働生産性を抜本的に改革していくためには、組織やITなど制度、仕組みからの取り組みだけではなく、組織人事の課題を根本から取り組みなおさなければならないと思います。残念ながら今の日本企業の組織は、労働力の利用があまりにも非効率すぎて、全体がその総和より小さくなるというマイナスの相乗効果状態といえるのではないでしょうか。「人」をどう管理、育成し、組織をどのように運営するかを考える経営革新が今こそ求められているように思います。残業を前提とした非効率な仕事のやり方、システムを改革し、無駄の多い社内手続きを抜本的に見直し、創造性とイノベーションを自発的に推進する湧き上がる組織づくりに急ぎ取り掛からねばなりません。そのための第一歩は、幹部社員の意識変革の取り組みからではないでしょうか。

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