コラム

 公開日: 2016-08-30  最終更新日: 2016-09-02

コストダウンをすれば利益が増えるのか?



利益に結びつかないコストダウンプロジェクト


ますます競争環境は激しくなっています。価格は下がり続けていますし、売れる商品が少ないうえに、商品寿命もどんどん短くなっています。人件費を含め固定費は大きいし、そう簡単にリストラで固定費は削減できません。爪に火を灯すごとく1円単位で経費の削減に取り組まなくては生き残ることができない・・・製造会社に限らずどのような企業においてもコスト削減の取組みを推進されていると思います。利益を少しでも捻出するため、無駄な経費を見直してコストダウンを行うことは当然のことです。しかも取引先からは調達コストの引き下げのために、調達先に対して常に大幅な値下げ要望が来ます。経営者として、あらゆる部門でコストダウンを実現していかなくては利益が確保できないと考えるのは当たり前のことでしょう。しかし、果たしてコストダウンをすれば利益が増えるのでしょうか。

前職の会社でも全社をあげてコストダウンのプロジェクトを推進していました。しかも専門部署を設け、グローバルに世界中の全拠点でコストダウンのアイデアを競い、現場での取り組み事例紹介のコンテストまでやって、削減効果金額がこれだけ上がりましたと全社会議で共有していたのを覚えています。トップダウンのプロジェクトであったことで、そのための専門部署のメンバーは必死になって世界中を駆け巡り、ありとあらゆる仕掛けやコストダウンの啓蒙、教育、ノウハウの共有などに取り組んでいました。コストダウン(として自己評価した)金額を単純足し算して、利益貢献金額として発表していたのには甚だ疑問を禁じえませんでした。全社でコストダウンのアイデア、実績を競い、その成果を横展開することで全社のコスト削減につなげようという主旨そのものは間違ってはいないとは思いましたが、それを推進するための間接部門のスタッフが世界中を飛び回って会議を何度も行うコストや現場にかかる負担、労力についての評価が全くなかったのは残念でした。コストダウンは必要ではないのかと聞かれれば必要であるとしか言えませんが、収益性向上のためにはもっと他にも重要なことがあります。あまりにもアイデア競争に焦点が当たったことで、目に見えやすい経費部分の削減取組み事例が多く、経費削減=利益貢献金額というような間違った自己評価をしがちでした。コストダウン実績●●億円達成!という報告が何度もありませしたが、逆に全社利益は売価ダウンの影響や為替の影響で減収というようなことは何度もありました。しかも、コストダウンプロジェクトをやらなければもっと減収幅は大きくなっていたというようなロジックに騙されていた人も多かったようです。前職を離れている立場として批判をするつもりはありませんが、他の企業でも取り組んでいるコストダウン活動について、収益性向上の観点から見て欠けている点について述べてみたいと思います。

まとめ買いはコストダウンとはならない


大企業の社員は、概して規模の経済の考え方、風土で仕事をしてきているため、量が多くなると安くなるという考え方を持っている傾向があります。資材を調達する際にも、ボリュームディスカウントを獲得できれば割引金額分がコストダウンを実現につながったというのをよく聞いたものです。また製造現場においても、段取り替えに伴う切り替えロスを減らすことが生産効率を上げてコスト削減につながるという思いから、できる限りロットのまとめ生産の段取りを組むことがあります。大企業ほど上から目線で自身の個別効率や個別コスト削減に取り組むため、需要に連動しないバッチといわれるまとめ仕事で自己満足することが多いのではないでしょうか。バッチというのはまとめることで一見コストを削減しているように見えます。確かに購買単価や製造時間単価は下がるとは思います。しかし各部門が個々にバッチ処理を広げることで、部門間で必ずつなぎ目に無駄が発生し全体最適にはなりません。バッチを行う部門それぞれで資材の在庫や生産工程の仕掛在庫は確実に増えます。まとめ買いをするということは、次回の発注までのリードタイムが長くなるということを意味しますから、増える在庫のために購入資金は必ず増加するわけです。まとめ生産を行う場合でも、仕掛在庫や製品の在庫を販売して代金回収するまでの資金負担は長期化します。一般的に大企業の社員、特に営業社員は調達部門の社員も含め、運転資金を気にして仕事をするケースが少ないので、在庫に対する感覚はかなり鈍いところがあります。このまとめ買いやまとめ生産を行うことによる資金負担の他、在庫ロスなどにかかるコストやリスクを考えねばなりません。目の前の単価削減が実現できたといっても、結局必要でない無駄なものを買ったり、在庫としていつまでも売れない無駄な製品を作ってしまうことにもなります。コストダウンの重要なことは、単価を下げることに加え、いかにキャッシュを寝かせないようにするかに焦点を当てなくてはなりません。

個別最適の積み上げはかえって無駄を生む


ある部門がコスト削減の素晴らしいアイデアを考え出し実践した、それを全社に横展開すれば最大のコスト削減効果を生むはずというのは幻想です。ある部門で実績を上げたコスト削減のアイデアは部分最適で効果を上げたに過ぎません。それを同じやり方で他の部門が導入して、同じようなコスト削減につながるのでしょうか。確かに一部ではそのノウハウを共有することで効果が生まれる場合もあるでしょう。当然のことですが、一つの仕事をするにも会社の中では多くの人と組織が関わっています。つまりバリューチェーンでコストダウンを実現できなくては意味がないのです。社員は皆一生懸命夜遅くまでコスト削減目標に向かって取り組んでいても、結果として期待した利益につながらないことがよくあります。これはバリューチェーンには必ず全体の効率を制約するボトルネックがあることに留意しなければなりません。いくらボトルネック以外の部門や機能が頑張って効率を上げたりコストを下げたとしても、その効果は全体に波及しません。例えば生産ラインで20個生産できるA工程、10個しか処理できないB工程、15個の処理能力を持ったC工程がつながっているとします。A工程が一生懸命コストダウン活動して20%の効率改善をしたとします。すると24個作れるようになり、設備焼却も進むし、沢山作れるようになったので、業者にも協力を要請して部材コストも下がって目標達成できる!・・・とはならないのです。結局ボトルネックのB工程が改善されない限り全体の生産量は上がらないのです。つまり、コストダウン活動には全体最適の視点が欠かせないわけで、収益性向上のためのコストダウン活動にするためには、個別の事例発表などでは不十分ということがわかります。

収益性向上の鍵はコスト削減よりスループットと資本回転率の向上


個別取組みより全体最適の視点がコストダウンを通じて収益性向上を図る一つの条件ですが、より重要なのはスループット、つまり粗利と資本回転率の向上の視点です。前述のまとめ買いやバッチは資本効率を下げる行為で、目の前のコストや単価引き下げに成功するよりも重要なことがあります。いかに付加価値の高い製品、つまり売れ筋で値下がりしにくい製品を製造し、資本をより回転させる方が遥かに収益性向上に有益であるという意識改革が必要です。資本には流動資産や固定資産がありますが、特に流動資産の棚卸資産、つまり在庫と、売上債権(売掛金)の二つをいかに早くキャッシュ化するかということが利益向上に直結するのです。

その一番の鍵は、「在庫」のマネジメントにあります。在庫削減という言葉は、日々耳にタコができるほど聞かれていると思いますが、資金繰りにあまり関与していない大企業ほど実感としては意識が薄い社員が多いのが実態です。しかし、在庫は単に減らせば良いというものではありません。当然在庫がないと顧客は買えないので、顧客が来店したときに在庫がなければ機会損失になります。一般に営業部門の社員は売上実績で評価されるため、品切れを起こさないようにできるだけ多くの在庫を持とうという意識が強く働きます。販売第一線では、需要はコロコロ変わるので、実際には何がいつどれだけ売れるかわからないのが実態ですから、需要に最大限応えて売上に結びつけるため在庫を増やす行動をしがちです。しかし、予想はだいたい外れます。現実の市場の変化はどんな緻密な分析による予測をも覆し、大量の在庫が売れ残ったり、肝心の売れ筋商品だけが欠品となってしまうことが日常茶飯事です。在庫が残ってしまいますと、在庫を作った資金が回収できなくなるだけでなく、店頭からも棚を競合製品に取られたりします。販売店をてこ入れして奨励金を出して在庫処分を図るなどすることで利益の損失も膨らむことになります。つまり在庫が膨らむと売価を下げざるをえないので、収益性は一気に下がってしまい、経費のコストダウンなど吹っ飛んでしまうインパクトがあります。値下げ販売は損益分岐点比率を一気に上げてしまうのはP/Lシミュレーションをすればすぐにわかります。付加価値の高い製品や売れ筋で値下がりしにくい製品を製造するのはそう簡単なことではありません。しかし本来、付加価値が高く売れ筋となっている製品は値下がりしにくく収益貢献度の一番高いものです。これを値下げをせざるを得なくなってくるのは、需要の予測が外れて、供給する商品が多すぎ過剰在庫となったりするケースになります。在庫は資金が寝ることで金利費用がコストとしてかかるということだけでなく、商品を保管するためのコスト(倉庫費用や冷蔵庫などの設備)もかかるため、費用削減の点からも在庫削減は大きな効果があります。

一般に収益性の貢献度は、粗利益に在庫の回転率をかけて評価します。これを交差比率といいます。粗利益は付加価値の高さと同じと考えてよいと思います。在庫の回転率は、売上を実現するための平均在庫金額の倍率(棚卸資産回転率)で求められます。いかに少ない在庫資産で付加価値の高い利益率の製品の売上をどれだけ達成したかで評価することが重要です。一般管理費の経費コストカットでアイデアを出し合うことも有益ではありますが、全体最適のコスト削減で収益性向上を推進するには、付加価値を高める活動と、需要に連動した在庫管理頻度の短縮化による在庫レベルの削減と品切れの防止活動の方がより効果的であると思います。

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