コラム

 公開日: 2016-09-13 

中小企業の海外展開こそ営業機能がより重要


中小企業の経営改革ニーズと助成金政策のずれ

当然のことですが中小企業の経営資源は大企業に比べて非常に脆弱です。そのため国や公的機関は、さまざまな補助金や金融支援や経営相談などの支援策を打ち出しています。これらの費用は国民の税金から捻出されていますので、決して福祉政策のようにバラマキではなく産業発展につながる投資と考えるべきで、将来国、社会に税金の形で還元されるものでなければなりません。ややもすれば国の経済政策とする割には、投資効果をあまり精査せずに、助成金制度や支援制度を行うこと自体が目的化しているように感じることがあります。日本の企業のうち、99%以上が中小企業ですので、産業政策における中小企業対策は極めて重要なのですが、施策が助成金や金融優遇などによって、本当に中小企業が世界で戦っていく経営体質が強くなっていけるのか疑問です。特に昨年から今年度は何でもかんでもTPP対応というものであれば予算化される傾向があるように感じられ、TPPで打撃を受けるとされる業界、中でも農業については補助金漬けでは限界があるため、日本の農林水産物や地方再生につながる地方産品を海外にもっと輸出する支援をしていこうという政治的な思惑と、省庁の予算権限拡大の利害が一致して「新輸出大国」というような仰々しいコンソーシアムという枠組みに政策を統合しています。ややもすれば農林水産・食品、レストラン、理美容、健康・医薬、日用品などといった分野での輸出実績を上げていきたいという思いが施策に滲み出ています。

しかし、中小企業の多くはまだまだモノづくりで切磋琢磨している企業が多く、それらが中小企業のイノベーションの源泉になっているにもかかわらず、モノづくり企業の経営改革や海外展開促進による付加価値増大に対するニーズへの支援は、以前に比べて格段に後退しているような印象を持ちます。モノづくり企業の支援については、設備投資に対する助成金や優遇税制などがありますし、職場環境の改善などについても同じような助成金があります。ただ、助成金はあくまでカンフル剤であって、それだけで経営体質が強化されるわけではありません。助成金の項目が拡大し予算額も増大するにつれ、本業の赤字埋め合わせのために、貰えるものは貰うとばかりに本業そっちのけで助成金申請に必死な企業も残念ながら存在します。私は、あるべき中小企業支援というのは、従業員一人あたりの付加価値額である生産性をいかにして高めるかについての経営改革支援であるべきです。企業が継続的に発展していくには、売上を上げることと、それによって獲得できる企業活動を通じた付加価値をいかにして高めるかに行きつくのではないでしょうか。助成金では直接的には生産性は上がりません。営業赤字を出しても助成金で税前利益をトントンにするような助成金では意味がないのです。あくまで売上増と総利益増、つまりスループットを上げていくことにつながる助成金でなくては死に金です。何億の中小企業対策をやるといって大幅補正予算増により助成金を拡大することはゴールではなく、それがどう企業のスループット拡大に貢献する支援かという観点が必要ではないかと思いますし、そのための評価をするには、年度予算消化という発想では全く通用しないと思います。

付加価値を最大化するための営業の役割

中小企業が付加価値を上げて生産性を高めていく視点として問題なのが、営業機能に対する意識の低さということを多くの企業からのヒアリングを通じて感じます。上述のように日本の中小企業は裾野産業のモノづくり企業として、組立型の大企業の製品を支える技術部品を多く製造している企業が多いのが現状です。そういった企業にとっての付加価値源泉は製造工程そのものであったり、技術力であったりするところが大半で、営業機能はほとんど持っていません。だいたい社長自身が取引先との営業にあたっていますし、そもそも主要取引先以外に営業して販路開拓する必要もなかった背景があります。しかし日本でのモノづくりの経営環境が大きく変化し、日本に留まっているだけでは座して死を待つことになります。社運をかけて新規顧客開拓、特に伸長著しい海外市場に打って出ることは待ったなしの状況になってきたのです。ところが営業社員を育ててこなかったところがほとんどで、中規模の企業でも地方の営業所を拠点に営業機能を持っていても、現在の得意先を維持するための御用聞き程度の役割しかないところが多いように思います。まして海外進出で新規顧客を開拓しようにも、どうやって販路開拓を進めてよいかわからない、展示会に出てPRしていこうとフォローができる社員もいない、まして海外法人を作って海外市場に照準を合わせたモノづくりをやろうにも、パートナーなしでできるのか、またそのパートナーはどのように探してどう判断したらよいのか全くわからないことだらけで、リスクも大きいからとしり込みするのは当然かと思います。JETROなどは海外経営においても情報提供という分野で支援を行っていますが、企業の中に入って人をどうやって確保して、経営人材を育てていくのか、どうやって経営のしくみと管理体制を作っていくのかまで支援することは困難です。中でも海外事業で重要なのは営業機能です。もちろん下請け事業構造のままで海外展開して、今までの取引先に供給するビジネスモデルで十分な場合は必要ないかも知れません。しかし、企業の強みを活かして海外でできる限り市場を広げていこうという目的で進出するときには営業機能の強化は欠かせません。モノづくりだけで企業経営できるほど生易しい海外市場ではないのです。また海外事業場の経営責任者一人や親元の社長一人が走り回っているだけで販路開拓するのも難しいです。たとえ有望な引き合いを獲得できたとしても、継続的に顧客に価値を提供し続ける提案により顧客関係性を確立する先兵は営業社員の役割です。

モノづくり系企業のドメインと営業機能

ややもすればモノづくり系の企業は、規模の大小にかかわらず営業機能軽視の傾向があります。品質の高いもの、技術的に優位性があれば必ず売れる、顧客から買いに来ると安易に考えている企業も多いように感じます。営業社員は顧客価値を創造し、提案し、実現するために不可欠な存在であって、企業が付加価値を最大化して発展していくには、顧客の声やニーズを敏感に感じ取り企業経営に直結させる活動が最重要です。営業は工場が最大効率の稼働を実現するために注文を取ってくるのが役割だ、注文が少なくて工場の稼働が落ちるのは営業の責任だと考える企業風土を持っているところも企業の規模にかかわらずあります。顧客価値を最大化することが企業の責任だという考え方に立てば、現有のモノづくりの資産は全く不要ということになるかも知れませんし、モノづくり以外で顧客価値を提供できることに事業ドメインを変更することも必要となる場合もあると思います。それをリードするのは顧客との直接的接点である営業そのものです。

中小企業の場合は、経営資源の面からそう容易く営業社員を増やすことはできません。しかし、どの顧客にどういう価値をどうお届けするかという事業ドメインの基本に立ち返り、一歩ずつどう顧客を新規開発していくかを具体的に考えることによって方向性が見えてくるのではないでしょうか。これが経営改革の出発点であって、助成金では解決するものではありません。この営業から見たニーズについてお役に立つことが経営支援コンサルタントとして求められていると思っています。

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