コラム

 公開日: 2018-04-16 

なぜ電機メーカーは海外展開で商社に依存しなかったのか




今から約40年前に大学を出て電機メーカーの輸出を中心とした貿易子会社に就職しました。そのときには既に海外販売拠点を各地に展開中で、多くの駐在員が世界各国に赴任され、それこそ商品を担いで自ら顧客や販路開拓に活躍しておられました。そのときの先輩の方々はまさしく市場の開拓者であり輝いていました。

憧れをもって私自身も一刻も早く海外を舞台に仕事をしたいとの思いで頑張っていたのを思い出します。それでもすぐに海外で仕事をするどころか、なかなか海外出張すらさせてもらえません。日常やりとりをしていた現地販社のスタッフの顔も知らなかったため悶々としていました。

ただ、たまたま最初に担当した仕事が台湾向けの電子部品輸出でして、だんだんと市場や顧客を実際に一日でも早くこの目で見たいとの思いが募ってきたのです。比較的近かったこともあり、入社して2年たったゴールデンウィークのときに、休みを利用して自費で台湾に飛び、台湾の代理店や販社のスタッフの人を訪ねていったのです。私にとってはこれが人生初めての海外渡航でした。あとで聞くと、「自費で海外出張してきたやつがいる」と話題になっていたそうで、販社の駐在員やスタッフだけでなく、ビジネスパートナーであった台湾の代理店の方々も大歓迎してくれました。もちろん休暇を利用した自費渡航ですので、仕事とは全く関係しなかったのですが、このときの台湾への渡航は一生忘れない貴重な体験となりました。自分自身にとって初めて目にした海外でした。独特の町の匂い、台湾の人々の表情、クラクションの喧騒感、バイクの洪水など、目にするものすべてが刺激であった一方、英語が口から出てこない焦りなど。。。強烈な印象であったと同時に、外国人と深くつきあえるきっかけとなり、その後の私自身の海外経験の基盤となったことは間違いありません。

私は今でこそベトナムなど東南アジア市場向けの仕事を中心に行っておりますが、今まで実際に仕事で関係した国で、大嫌いになって自分に合わないと思ったところは一つもありません。どういうわけかすべての国が大好きになるのです。海外駐在としてはアメリカ、イギリス、ベトナムと三か国で13年を過ごしましたが、日本での勤務で深く関係した国は非常に多く、中でも台湾、香港、中国、そして東南アジア各国とインドとの関わりは大変長く、それらの国、市場、国民がすべて好きになりました。中でも会社生活最後のベトナムと、最初の台湾とはライフワークで切ってもきれない国となりました。

なぜ電機業界は自ら海外市場を開拓したのか


少し本題とはずれましたが、会社に入った時点で既に多くの先輩諸氏が自ら世界中を飛び回って、海外市場のあらゆる拠点にくさびを打ち込み、自社自身で販売会社を設立したり、現地で代理店網を着々と構築されていたのでした。ただ当時より不思議だったのが、いわゆる大手商社を通じて海外市場を開発しているところはほとんどなかったのです。一部専門商品に特化して扱う専門商社や、現地の販売網を持って相乗効果のある代理店を活用することはありましたし、現地資本と合弁でなければ販売機能を持てなかった市場もありました。しかし、そういったところでもほとんどで駐在員事務所をまず置いて市場開拓の支援を行う取り組みが初期から進められており、決して総合商社などに丸投げして海外市場を任せるようなことはありませんでした。もちろん商社から海外市場向けに商品を購入したいとの引き合いはあり、一部の例外として商社に販売していたことはありました。しかし、電機業界はもともと自ら作ったものは自ら販売するという自主独立の精神が高い業界でした。顧客が望むものを製造し販売するには、直接販売網を構築して顧客の情報をモノづくりに直結させる必要があり、そのためには決して商社を間に立たせる取引でなく直接海外市場を開拓するべきであるとの考えが根強くありました。

メーカーが自分たちだけで海外展開できると思うのはむしろ幻想


しかしこの業界風土はいつまでも通用する論理であったかというとそうでもないのです。確かにメーカーが製造したものを海外の販売網につなぐだけの機能では、商社としての付加価値はあまりありません。しかし資源関連のビジネスでは鉱山や油田を含めた素材供給源の開発を素材メーカー自身が行うのではなく、商社に任せたほうがより効率的です。また新たな付加価値を提案し、それを多くのメーカーや開発企業を結び付けるシステム事業で実現するには、メーカー主導よりも商社がコーディネートする方が柔軟な発想とアクションが可能になります。つまり現代社会における新たな価値は、「何かと何かをつなぐ」ことで生まれてくるのであって、AiやIOTの時代にあってはメーカー主導では生き残れないのではないかと思っています。今後はメーカーもより商社的付加価値の創造をいかにして進めるかに舵を切り、ソリューションありきの事業創造が重要になってくるような時代の変革を感じます。メーカー自身が自分たちだけで海外展開するのが当たり前と考えていること自体がむしろ幻想に近くなってきています。電機メーカー一社で海外に何百拠点も持っているというのはもはや時代遅れです。また、何でも自分たちだけの発想ややり方が身に染みているだけに、コンサルタントを使って外部の知見を活用したり、M&Aによって付加価値を高めていることには一般的には非常に下手くそです。

日本の電機メーカーがグローバル市場から大きく立ち遅れ、成長性がほとんど止まってしまっている原因をどこまで感じているのか、電機メーカーの立場を離れて初めて見えることも多いのです。

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