コラム

 公開日: 2017-07-11 

遺留分の基本

遺留分とは

 「遺留分」という言葉をご存知でしょうか。
 遺留分というのは、相続に関する期待権のようなものを保護する趣旨から、被相続人(故人)の遺産の内、一定の範囲の相続人のために最低限保障されている割合、取り分のことをいいます。
 例えば、被相続人に、相続人として長男と次男の2人がいる場合に、被相続人が「全ての財産を長男に相続させる」という遺言書を作成しても、次男には遺留分が認められているため、長男に対して、「私の遺留分については私に渡すように」と求める権利があるのです。
 この権利が「遺留分減殺請求権」と呼ばれるものです。
 「減殺」とは、ここでは「取り戻し」という意味に理解いただけばよいでしょう。
 遺留分減殺請求権は、遺言のない場合の法定相続分のように、権利者が何もしなくても自然に発生するものではなく、遺言等で侵害された遺留分を確保するためには、遺言等により財産を相続した人に対して、遺留分減殺請求をする旨の意思表示をする必要があります。
 この意思表示は、後に争いとなったときに立証できるよう、通常、内容証明郵便など証拠が残る形の請求書面で行います。
 遺留分減殺請求権は、相続開始の事実と自分の遺留分が侵害されていることを知った日から1年、あるいは、それらを知らなくても相続開始の日から10年を過ぎるまでに行使しなければ、時効で消滅してしまいますので、ご注意ください。

 遺留分が認められている相続人は、被相続人の配偶者、子、直系尊属(父母や、父母が先に亡くなっている場合は祖父母)です。兄弟姉妹には遺留分はありません。
 遺留分として請求できる割合は、配偶者と子については、法定相続分の2分の1、直系尊属については法定相続分の3分の1の額と定められています(民法1028条)。

 この点、前述の、被相続人に、相続人として長男と次男という2人の子がおり、被相続人の遺言で次男の遺留分が侵害されたというケースにあてはめると、次男の遺留分は、自身の法定相続分である2分の1のさらに2分の1である、4分の1ということになり、遺産の4分の1について、長男に対して、引き渡すよう請求することが可能となります。

 なお、遺留分が侵害され、その取り戻しが問題となるのは、遺言によるケースばかりではなく、生前贈与によって、特定の相続人に被相続人の遺産が移転しているケースでも、遺留分減殺請求権を行使できる場合があります。
 民法1030条に「贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。」という規定があり、生前贈与された財産でも、一定の要件を満たせば、遺留分算出の基礎とすることができます。
 被相続人の生前に、特定の相続人に、遺産が全て譲渡されてなくなってしまっていたとしても、必ずしも他の相続人は諦めなければならないというわけではないのです。

遺留分を考慮した遺言がベター

 上述のように、せっかく遺言を遺しても、一部の相続人の遺留分を侵害するような内容であると、被相続人の死後に、遺留分請求という形で相続人間の紛争が生じてしまいます。
 そのため、「自分の死後に相続人が揉めることがないように遺言を遺したい」とお考えの場合は、遺留分の権利がある相続人に対しては、その権利を満たすような内容の遺言、すなわち、遺留分に相当する価額の遺産を相続させるように調整した遺言を作成されるとよいでしょう。

 また、配偶者や子、直系尊属には遺留分の権利がありますが、法定相続人の第3順位である兄弟姉妹には、遺留分が保障されていませんから、被相続人に子や直系尊属がいない場合であっても、遺言を遺すことによって、兄弟姉妹に全く相続させないことが可能です。
 実務でよくあるのは、老夫婦に子も孫もない事案で、ご夫婦それぞれが、「自分が死んだら、配偶者に全財産を相続させる」という簡単な遺言書を作成しておかれるというケースです。
 このような遺言がない場合、ご夫婦の一方が亡くなった場合に、亡くなった方の兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は代償相続した甥姪)に4分の1の法定相続分が発生してしまい、その兄弟姉妹等が遺産分けを現実に求めてきた場合に拒むことができません。
 しかし、上記のような遺言書を作成してさえおけば、兄弟姉妹等には法定相続は生じず、遺留分の権利もないために、遺された配偶者が全遺産を単独で相続することができるからです。

 兄弟姉妹と不仲であるような場合だけでなく、遺産が多額である場合、とりわけ遺産の大半が親から受け継いだものである場合には、兄弟姉妹が「元々は当家の財産なのに、他家(被相続人の配偶者側)のものになるのはおかしい」などと主張してきて紛争となりがちです。
 遺された配偶者の老後の生活を確実に守るためには、兄弟姉妹に一切相続をさせない旨の遺言書を作成しておくことは欠かせません。

遺留分の放棄

 遺言書を作成しようとする方から、「特定の相続人には遺留分すらあげたくないので、遺留分の請求権を相続発生前(遺言者が亡くなる前)に放棄してもらうことはできないのか」とのご質問を受けることがあります。
 この点、遺留分を有する相続人は、相続の開始前(被相続人の生前)に、家庭裁判所の許可を得て、あらかじめ遺留分を放棄することができるという制度はありますので、遺言者が当該相続人に、自ら遺留分放棄の手続をとってくれるように頼むということは考えられます。
 しかし、断られれば強制できるものではありませんし、当該相続人に家庭裁判所に申立をしてもらうところまで強引にもっていったとしても、家庭裁判所の審査においては、果たして、予めの遺留分放棄が真意に基づくものか、すなわち、遺言者や他の相続人から強いられたものではないかが慎重に審理されますので、なかなか思いどおりに事が運ぶものではありません。
 遺留分を予め放棄してもらいたい場合は、当該相続人に一定の財産を生前贈与するなど、相当な工夫が必要でしょう。

                                                  弁護士 中村正彦

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