コラム

 公開日: 2018-02-01 

遺産不動産の賃料収入は誰のものか

 遺産の中に、亡くなった被相続人名義の収益物件がある場合、当該物件から得られる賃料収入は、どうなるのでしょうか。

 この点、相続人の間で速やかに遺産分割協議が成立し、当該収益物件の所有者が新たに確定すれば、その新所有者が賃貸人の地位を承継して、被相続人が賃借人と締結していた賃貸借契約をそのまま引き継ぎますから、当然に賃料収入も新所有者が得ていくことになり、特段の問題は生じません(なお、この際、新たな賃貸借契約の巻き直しは法律的には不要です。以前からの契約がそのまま有効に存続するためです)。

 しかし、相続争いがあるような事案では、遺産分割がまとまるまで何年間も要することも少なくないため、その間に賃貸物件から得られる賃料収入について問題となります。

 まず、賃借人からの賃料の支払方法が、被相続人名義の口座への振込払いであった場合、被相続人の死亡を金融機関が把握しますと、その口座への出入金が停止されてしまいますから、賃料の支払方法を変更することなく被相続人名義の口座で貯めていくということは、現実的ではありません。
 そこで実務では、相続人のうち、被相続人に最も身近であった方が、相続人代表者として、賃借人に対して賃料振込先の変更を連絡し、相続人代表者名義の口座で賃料を受領しているケースが多く見られます。
 しかし、このケースでも、そもそも誰が相続人代表者になるかで争いになったり、また、相続人代表者となった人が、遺産分割が完了するまでの間、暫定的に自らの口座で賃料を受領するにすぎないにもかかわらず、「この収益物件は自分が相続することになるのだから、遺産分割完了前に受け取った賃料も全て自分がもらう」などと主張したり、あげく賃料を費消してしまっているなど、賃料を巡る相続人間の紛争が、かえって混迷してしまうことがあります。

 では、被相続人の死亡後、遺産分割が完了するまでの賃料収入は、法律的にはどう位置づけられ、誰に取得する権利があるのでしょうか。
 この点については、最高裁判所平成17年9月8日判決が、以下のとおり、明確な結論を出しています。

 「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」

 このように、遺産分割未了の段階の賃料については、法定相続分に従って、各相続人が取得する権利を有すると解されるのです。これは、後に遺産分割が成立して、収益物件を誰が相続することになっても、さかのぼって影響を受けることはありません。

 そのため、相続人代表者が受け取っていた賃料については、遺産分割成立までの分はきちんと計算して、各相続人に分与しなければなりません。
 なお、この賃料精算の話し合いは、事実上、遺産分割の問題と合わせて協議するのが一般的ですが、法律的には、遺産の問題とは別の不当利得返還請求という金銭支払請求権の問題ですので、協議で合意が形成できない場合は、地方裁判所で一般的な民事訴訟を起こして請求していくことになります。

 話し合いと任意の請求で精算するという適切な事後処理が十分に期待できないような場合は、各相続人が、賃借人に対して、それぞれの法定相続分の範囲の賃料を、各相続人名義の口座へ直接支払うよう請求することも可能です。
 実際に私が担当した案件でも、事実上の相続人代表者が賃料収入を独り占めして私物化しており、遺産分割協議も膠着状態に陥っている状況でした。
 私は、相続人の一人からの依頼を受けて、賃借人に対し、遺産分割未了の事情を説明するとともに、上記最高裁判決の考え方を示して、「毎月の賃料の●分の●にあたる●万●円は、こちらに直接支払ってください。当方はA氏に賃料収受権限を委任していませんので、相続人代表者を名乗るA氏に対して賃借人様が全額の賃料を支払われても、当方の分につきましては有効な支払になりませんのでご注意ください。」というような請求書を送付し、依頼人の賃料の法定相続割合分については、当方への直接振込に切り替えてもらいました(ただし、振込手数料については、賃借人の二重負担となるため、円滑に直接払いに応じてもらうためにも、これを差し引いた金額としました)。

 このように賃料の一部をいわば切り取る措置は、膠着状態に陥っている遺産分割協議を前進させるきっかけになる効果もあります。
 相続人代表者からすれば、これまで満額確保していた賃料が目減りすることは直接的なダメージとなり、「早く遺産分割を成立させて、この収益物件を自分の単独所有にし、また賃料を全額受け取れるようにしよう」と考えるからです。

 以上、収益物件の売上にあたる賃料についてご説明しましたが、経費にあたる固定資産税や修理費用などについては、民法885条1項本文に「相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。」という規定がありますので、遺産分割の成立までは相続人の誰かが立て替えて支払っておき、遺産分割の話し合いの中で一緒にその精算も行う(遺産の預貯金等から、立て替えた人に支払をする)ということになります。
 相続人代表者が賃料をまとめて受け取っている場合は、受領した賃料から経費を支出するということでも、預貯金等から精算するのと実質的に同じなので、賃料から必要経費を精算した上で、残った賃料を法定相続分に従って分与するという処理をするケースもあります。

                                                    弁護士 中村正彦

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