コラム

 公開日: 2018-06-12 

具体的相続分の確定~特別受益・寄与分・遺留分減殺請求との関係

具体的相続分とは

 遺産分割の最終段階で各相続人が分配を受けるにあたって、その前提となる当該相続分の計算上の価額または相続分の価額の遺産総額に対する割合のことを「具体的相続分」といいます。
 このように具体的相続分は、遺産分割手続における分配の前提となる「割合」を意味するものに過ぎないことから、遺産分割事件における遺産の分割や、遺留分減殺請求における遺留分の確定等のための「前提問題」として審理判断される事項に過ぎないと考えられています(最高裁平成12年2月24日判決)。
 つまり、具体的相続分がわかったからといって、それだけで直ちに、当該相続人に、具体的な遺産の分配請求権が発生するわけではありません。

具体的相続分の確定

 具体的相続分の確定については、概ね、以下の手順の処理を行います。

① 相続開始時における被相続人が有していた財産の価額を確定する
   まず、相続開始時(=被相続人の死亡日)において、被相続人が有していた積極財産(プラスの財
  産)の相続開始時時点での評価を行い、合算します。
   なお、消極財産(マイナスの財産)である相続債務については、ここで被相続人が有していた積極財
  産から控除するのではなく、別途、各相続人の相続分に応じて分割承継(相続)することになります。

② 特別受益・寄与分などの処理~みなし相続財産の算定
   次に、特定の相続人に対する被相続人からの生前贈与などが、特別受益に該当する場合には、その
  贈与額を、①で算定された相続財産に加算します(民法903条1項。特別受益の持戻し。)
   また、寄与分がある場合には、①で算定された相続財産から当該寄与分を控除することによって、
  「みなし相続財産」を算定します(民法904条の2第1項)。
   特別受益・寄与分のいずれもない場合は、この手順は不要です。

③ 具体的相続分の額の算定
   最後に、②で算定された「みなし相続財産」(②の手順が不要な場合は①における価格)に、各相続
  人の相続分割合(法定相続分又は指定相続分)を乗じて各相続人の「一応の相続分」を算定します。
   そして、特別受益を受けた相続人については、「一応の相続分」から贈与を受けた額を控除し(民法
  903条1項)、寄与分が認められる相続人については、「一応の相続分」に寄与分の額を加える(民法
  904条の2第1項)ことによって、ようやく各相続人の具体的相続分が算定されることになります。

 この点、特別受益を受けた相続人Aと寄与分を有する相続人Bが併存する場合に、どのように処理するべきか問題となりますが、相続人Aの特別受益の持ち戻しと、相続人Bの寄与分を控除する処理は同時に行うというのが実務上の扱いです。
 すなわち、相続開始時における相続財産に、まず、相続人Aが受けた特別受益(贈与の価額)をこれに加え(民法903条1項。特別受益の持戻し)、そこから相続人Bの寄与分を控除(民法904条の2第1項)した価額が「みなし相続財産」となり、これに、それぞれの相続分を乗じて相続人Aと相続人Bの「一応の相続分」を算定します。
 その後、相続人Aについては特別受益を控除(民法903条1項)し、相続人Bについては寄与分を加える(民法904条の2第1項)という処理をして、各自の具体的相続分が算出されます。

 以下、具体例をもとに見ていきましょう。
 被相続人の相続開始時における相続財産が500万円、相続人は子Aと子Bの2名(法定相続分2分の1ずつ)のみの場合において、子Aは被相続人から特別受益として生前贈与200万円を受け取っており、他方、子Bには寄与分150万円が認められるとします。
 このケースでは、子Aに200万円の特別受益が認められるので、まず、これを相続開始時における相続財産500万円に加えます(500万円+200万円=700万円)。
 次に、ここからさらに、子Bの寄与分150万円を控除します(700万円-150万円=550万円)。
 この550万円が「みなし相続財産」となります。
 そして、子A、子Bともに相続分は2分の1ですから、「みなし相続財産」である550万円に2分の1を乗じた額が、それぞれの「一応の相続分」となります(550万円×1/2=275万円)。
 最後に、子Aについては、受領済である特別受益200万円を「一応の相続分」から控除(275万円-200万円=75万円)し、子Bについては、寄与分の150万円を加えて(275万円+150万円=425万円)、具体的相続分を算出します。
 このケースでは、子Aの特別受益額200万円は、子Aの「一応の相続分」である275万円を超えていませんので、相続開始時における500万円については、上記の計算どおり、子Aは75万円、子Bは425万円の割合で取得する(最終的な取得額がそれぞれの具体的相続分と一致する)ことになります。

 なお、ある相続人が寄与分を主張すると同時に、「その寄与に対する対価として」生前贈与を受けているなど特別受益があると認められる場合には、当該相続人について、被相続人には特別受益の持戻しの免除の意思表示があったものとみて、生前贈与を持戻しの対象にせず(相続財産に付加しない)、かつ、その限度で寄与分の請求も認めない(相続財産から控除しない)、という処理を行うことになるとされています。

超過特別受益を返還する義務があるか

 上述のケースでは、偶々、具体的な相続分と最終的な分配額が一致していましたが、これは必ずしも一致するものではなく、「一応の相続分」を超える特別受益(「超過特別受益」)があることも少なくありません。
 この点、超過特別受益を受けた相続人の具体的相続分はマイナスになりますから、当該相続人は、その相続では遺産の分配を受けることはできませんが(民法903条2項)、超過分について、他の相続人へ返還をしなければならないのでしょうか。

 上述のケース同様、被相続人の相続開始時における相続財産が500万円、相続人は子Aと子Bの2名(法定相続分2分の1ずつ)のみの場合において、子Aは被相続人から特別受益として生前贈与500万円を受け取っており、他方、子Bには寄与分150万円が認められるというケースで考えてみましょう。

 まず、子Aの特別受益の額である500万円を相続財産500万円に加え、そこから子Bの寄与分150万円を控除し、みなし相続財産を算出します(500万円+500万円-150万円=850万円)。
 そして、子A、子Bともに相続分は2分の1ですから、「みなし相続財産」である850万円に2分の1を乗じた額が、それぞれの「一応の相続分」となります(850万円×1/2=425万円)。
 ここから、具体的相続分を算出すると、子Aについては、一応の相続分425万円から特別受益500万円を控除すると、マイナスになります(425万円-500万円=△75万円)。
 他方、子Bについては、一応の相続分425万円に寄与分150万円を加えた575万円になります(425万円+150万円)。
 この結果、子Aは相続開始時の財産500万円から具体的な相続の分配を受けることはできず(民法903条2項)、被相続人の相続開始時の財産500万円は、すべて子Bが取得する(分配を受ける)ことになりますが、このままでは、子Aについては具体的相続分である575万円を75万円超過した分配がされる一方、子Bは具体的相続分から75万円不足した分配しか受けることができません(最終的な分配額と具体的相続分に不一致が生じている)。

 このような場合、子Aは超過分(超過特別受益)である75万円(子Bからみれば不足分)を子Bに返還する必要があるのでしょうか。
 この点については、原則として、超過分を返還する義務はないと一般的に解されています。
 なぜなら、特別受益者の相続分について規定する民法903条2項は、特別受益の額が、上記「一応の相続分」を超える場合には、当該特別受益を受けた者は、「その相続分を受けることができない」と規定しているだけで、超過分を返還すべきということまでは規定していないからです。
 また、生前贈与を行った被相続人の意思としても、この超過分について返還させることを望んでいるとまでは通常考えられないからです。

超過特別受益と遺留分減殺請求

 上述のとおり、ある相続人に超過特別受益があったとしても、原則として、当該相続人には超過特別受益を他の相続分に返還する義務はありません。
 しかし例外として、当該特別受益が、他の相続人の遺留分を侵害しているといえる場合には、遺留分を侵害された相続人は、侵害された遺留分の減殺請求をすることができると解されています。

 例えば、前記同様、相続人は子Aと子Bの2人のみであるが、被相続人が、子Aに対して1000万円の生前贈与(特別受益)を行っており(寄与分はなし)、相続開始時の遺産がゼロである(相続債務もない)というケースで考えてみましょう。

 この場合、具外的相続分の算定の基礎となる「みなし相続財産」は、生前贈与(特別受益)について持戻し計算を行った結果、1000万円と算定され(0+1000万円)、子Aと子Bの一応の相続分は、それぞれ2分の1ずつである500万円となります(1000万円×1/2)。
 しかし、相続財産はゼロですから、結局、具体的相続分は、子A、子Bともゼロになります(子Bは、子Aに対して、子Aの特別受益1000万円のうち、一応の相続分500万円を超える部分である500万円の超過特別受益について、返還を請求することができないのが原則であるため)。

 では、子Bは、例外として、子Aに対する生前贈与(特別受益)が、遺留分を侵害しているとして、子Aに対して遺留分減殺請求をすることができないでしょうか。

 遺留分の算定の方法は、民法1029条1項により、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する」とされています。

  <遺留分算定の基礎となる財産の確定の計算式>
   (相続開始時の財産の価額)+(被相続人が生前に贈与した財産の価額)-(被相続人の債務の全額)

 このように、遺留分算定の基礎となる財産の確定にあたっては、冒頭で説明した「具体的相続分の確定(算定)」とは、以下の点で計算方法が異なりますので、注意が必要です。

① 寄与分が控除されない。
② 相続債務は控除される。
③ 遺留分算定の基礎となる財産に算入される「贈与した財産」の範囲は、相続人に対する贈与に限定さ
  れない(相続人以外の者に対する贈与も算入される点で異なる)。

 では、遺留分算定の基礎となる財産の確定にあたって算入される「贈与(民法1029条1項)」には、「特別受益」としてなされた贈与(民法903条1項の贈与)も含まれるのでしょうか。

 遺留分算定の基礎となる財産を確定するにあたって算入される「贈与(民法1029条1項)」は、民法1030条により、以下のいずれかであることが必要とされています。

① 相続開始前の1年間になされた贈与(同条前段)
② 遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与(同条後段)
③ 不相当な対価でなされた有償処分(民法1039条により贈与とみなされます)

 ここで、「特別受益としてなされた贈与(民法903条1項の贈与)」についても、上記1030条の要件を充たす必要があるのかが問題となります。
 この点については、最高裁の判例があり、当該贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の規定にかかわらず(すなわち、「当該贈与が相続開始前1年間になされたかどうか」、「遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与であるかどうか」を問わず)、遺留分算定の基礎となる財産を確定するに当たって算入される(遺留分減殺の対象となる)ものと解されています(最高裁平成10年3月24日判決)。
 したがって、特別受益としてなされた贈与は、遺留分算定の基礎となる財産の確定にあたっては、1030条の要件に該当しない場合でも、1029条1項の贈与として算入されることになります。

 以上を前提に、本件ケースにあてはめると、子Aへの生前贈与(1000万円)が特別受益に該当する場合(民法903条1項の贈与に該当するとされる場合)には、遺留分減殺請求を認めることが、子Aに酷であるなどの特段の事情がない限り、その贈与は、民法1030条の要件を充たさない場合でも、民法1029条1項の贈与とされ、結果的に遺留分算定の基礎となる財産に算入される(遺留分減殺の対象となる)ことになります。
 本件ケースにおいて、遺留分減殺請求を認めることが、子Aに酷であるなどの特段の事情が認められないとすれば、遺留分算定の基礎となる財産は、相続開始時の財産(0円)に、特別受益となる1000万円の贈与を加えた額である1000万円になります(0円+1000万円)。

 次に、遺留分の侵害額の算定ですが、まず、子Bの総体的遺留分は、民法1028条2号により、被相続人の財産の2分の1の割合になります。
 子Bの個別的遺留分の割合は、遺留分算定の基礎となる財産に、この子Bの総体的遺留分の割合(2分の1)を乗じ、さらに、これに、法定相続分の割合(本件ケースでは、民法1044条により準用される民法900条4号に基づき2分の1)を乗じて算出されます。
 この結果、子Bの個別的遺留分の額は、250万円になります(1000万円×1/2×1/2)。

 最後に、子Bの遺留分の侵害額の算定ですが、これは、子Bの個別的遺留分である250万円から、子Bがこの相続によって得た財産の額、相続債務についての子Bの負担額、子Bの特別受益額を控除して算出されます。
 本件ケースにおいては、これらは、いずれも0円ですから、結果として250万円のまま変わりありません(250万円-0円-0円-0円)。
 したがって、子Bの遺留分の侵害額は250万円ということになり、子Bは、子Aに対し、250万円の遺留分減殺請求をすることができることになります(250万円を支払えという請求ができる)。

                                                    弁護士 松尾善紀

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