コラム

 公開日: 2013-11-15 

離婚事件簿その7~親権争い(後編)

(前編はコチラ)
 調査官の意見や裁判所の判決は、一体どのような基準で親権者をどちらにするかを判断しているのでしょうか。

 一般的抽象的には、「いずれの親に育てられるのが、より子供の福祉、利益に添うか」という観点から決められるとされています。
 例えば、一方の親が子供に虐待や不適切な養育をしていたという事実があれば、その親は親権者としては不適格とされます。
 ただ、実際には、このような分かり易い例は少なく、実務的には、「子供の福祉」の判断要素として、以下の4点が重視されて判断がなされているといえます。

現状尊重(監護の継続性)

 離婚訴訟等に至るまでには、ほとんどの場合、夫婦の別居が先行しているわけですが、「その別居後、現在まで、夫婦のどちらが子供を手元で育てているか」ということが、親権の判断において最も重視されるといっても過言ではありません。

 離婚の調停や訴訟は、かなりの期間を要しますが、その間、一方の親が手元で子供を養育している状況が概ね良好で、子供も問題なく暮らしているのであれば、裁判所は、現状を変更して子供をもう一方の親に引き取らせるという判断は、まずしません(上手くいっているものをあえて変更するというリスクはとらない)。

 ですから、私は、親権争いが予想されるケースにおいては、「親権を取りたいのであれば、絶対に手元で養育し続けなければだめですよ」と助言しています。

母性優先

 子供が幼い場合の裁判所の判断においては、「母親が優先される」という傾向が顕著です。
 子供と父親との関係ももちろん大切ですが、子供が幼い時期は、母親との親密な愛着関係が子供の情緒的な発達に極めて重要であるというような考え方が背景にあるようです。
 また実際にも、母親の方が幼い子供の養育にもっぱら当たってきたというケースがほとんどであることも、母親が優先される例が圧倒的に多い理由でしょう。

 このような判断傾向に対しては批判もあるところですが、当面の間、このような裁判所の考え方は変わらないように思われます。

本人意思尊重

 子供の年齢が高くなればなるほど、子供本人の意思が尊重されます。
 子供が15歳以上の場合は、子供本人に対して、父母のいずれが親権者になることを望むかについての意向確認をなすことが義務付けられていますし、15歳に至らない場合であっても、小学生の高学年以上の子供については、調査官の調査等によって、子供本人の気持ちや希望の確認がされ、その意思が尊重されることが多いといえます。
 一方、子供が幼い場合は、その意思が確認できる場合は相応に参考にされますが、子供が幼いほど監護親(現に育てている親)の意向に添った意思表示をしがちであるので、直ちに子供の述べたとおりの結論になるというものでもありません。

きょうだい不分離

 子供たちが複数いる、すなわち兄弟姉妹が親権争いの対象となっている場合、「子供たちを分けて別々の親に引き取らせることはしない」という原則的考え方も裁判所はとっています。
 子供にとって、きょうだいの絆というのは切実なものであり、親の都合で、きょうだいと引き離されることは子供の心の傷になるという考え方が背景にあります。


 以上のような実務的な判断傾向に対して、一般的には子供の養育にあたって重要な判断要素となるようにも思える、「経済的にどちらの親が安定しているか(裕福か)」とか、「離婚の原因が主として父母のどちらにあったか」ということは、あまり重視されないのが実情です。
 そのため、浮気をして家庭を壊した親(有責配偶者)であっても、別居後子供をきちんと育てていれば、あっさりと親権者として認められるという例も少なくないのです。

 なお、親権争いが深刻な場合、調停や訴訟上の和解の場面で、「親権者」を父親とする一方で、「監護権者」を母親にするという形での解決を図るということも考えられます。
 この場合、単なる監護権者である母親には、「子供に関する重要な判断をなす権限」である親権はないのですが、「監護権」という「現実に手元で子供を養育する権限」があるので、母親は子供を手放さずにすみます。
 他方、監護権のない親権者となる父親は、子供を自らの手元で養育できないものの、子供の養育に対する重要な決定権限は持てるという、いわば「父母両方を立てる」形にする妥協的解決です。
 通常は、監護権は親権に含まれるものなのですが、親権から監護権を法的に分離して、非親権者に持たせるということも、テクニカルではあるものの可能なためです。

 しかしながら、かつては実務上多用されていた、この親権から監護権を分離することによる解決方法は、どこまでが親権者の権限で、どこまでが監護権者の権限かが必ずしも明確ではないという問題をはらんでいることから、離婚後に子供の養育を巡って新たな紛争が起きることも少なくなかったため、近年では、「離婚する父母の間に、今後の養育について、十分な信頼関係があるような特別な場合でない限り、親権から監護権を分離させて解決することはしない」ということを、現役の家庭裁判所の裁判官から聞きました。
 私の実務経験においても、このような解決方法は、確かに最近見られなくなっています。

 親権争いに敗れるということは、子供を愛する親にとっては、それは大変につらいことです。
 ただ、敗れてしまった以上、「愛する子供に会いたい、交流したい」という思いは、もはや「面会交流(面接交渉)」という手続の中で実現していくほかありません。

 これはすなわち、親権争いの敗北は、面会交流の権利の切実性・重要性をより一層高めるということを意味します。
                                        弁護士 中村正彦

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