コラム

 公開日: 2014-07-18 

離婚事件簿その15~退職金の財産分与

 以前、離婚に伴う財産分与に関するコラムにおいて、退職金が財産分与の対象となることがあるというお話をしました(→離婚に伴う財産分与(後編))
 もっとも、退職金は、多くの場合、将来に支給が予定されているものであって、支給時の会社の業績如何によっては、財産分与の時点における額面から大幅に減額される可能性もあるわけですから、そもそも、財産分与の対象になるのか、なるとしても、どのように財産評価するのか、裁判所においても判断がわかれる非常に難しい問題のひとつです。

財産分与の対象となる退職金

(1) すでに支給されている退職金

  以前のコラムで説明したとおり、財産分与の対象となる夫婦共有財産なのか否かについては、別居
 時を基準に判断されますから、別居時にすでに退職金が支給されており、それが預貯金や現金、有価
 証券、不動産など何らかの形で残っているのであれば、その財産が財産分与の対象となります(別居
 までに夫婦の生活費などに使用されてなくなった部分については、財産分与の対象になりません)。

  また、別居時には退職金が支給されていなかったものの、別居後に支給された場合についても、財産
 分与の対象となります。
  この場合、別居後に、夫が退職金の一部を個人的に使い込んでしまい、分与すべき金額が手元に残
 っていなかったとしても、財産分与の対象となることを免れることはできません(残額ではなく、実際に
 支給された金額をもとに財産分与の計算をします)。


 
(2) まだ支給されていないが、ほぼ確実に支給されるといえる退職金

  退職金がまだ支給されていない場合であっても、退職金は賃金の後払い的性格が強いと考えられてい
 るため、将来の支給の可能性が高い場合には、財産分与の対象となることがあります。
  定年が間近な場合もそうですが、勤務先の経営状況や退職金規程、本人の勤務状況など様々な事情
 を総合的に判断して、将来、退職金がほぼ確実に支給されるといえる場合には、財産分与の対象となる
 と考えてよいでしょう。

退職金の財産評価の方法

(1) 既に支給されている退職金の場合

  退職金は賃金の後払い的性格がありますから、他の財産と同様に、独身時代の労働部分は、特有財産
 として差し引き、夫婦共同生活において築かれたといえる部分、すなわち同居期間の部分のみが財産分
 与の対象となるのが一般的です。

  数式にすると以下のようになります。

       財産分与の対象となる金額=支給された退職金額×(同居期間/勤続期間)

  もっとも、私が経験した事案では、同居期間を退職金規程における在職年数(≒勤続期間)であるとみな
 して、対象金額を算出したケースもありましたので、やはり事案によるところがあり、上記の計算方法は、
 目安としてお考えいただくとよいでしょう。


 
(2) 将来支給される予定の退職金の場合

  対して、将来、支給が予定されている退職金の場合には、まだ支払われていない退職金をどのように評
 価し、財産分与の対象額を算出するのかが問題となります。

  この点に関しては、以下のような算出方法があり、裁判所の判断も分かれています。

  ① 別居時に自己都合退職したものとして、別居時の年齢を退職金規程にあてはめ、退職金額を算出
    する方法。
  ② 定年退職時の退職金から、別居後の労働部分を差し引き、さらに、本来、定年退職時までもらえな
    いものを、先払いすることから、年5%の利息(「中間利息」といいます)を差し引く方法。
  ③ 定年退職時の退職金から、別居後の労働部分を差し引き、定年退職時に支払う方法(②と異なり、
    先払いしないため中間利息は差し引きません)。

  実務上は、①の方法によって算出することが一般的です。
  私がつい最近経験したのもこの方法でした。

  ②は、5年程度の内に退職が予定されている場合など、比較的退職が近い場合に用いられる方法です。

  ③については、支払を退職時まで留保するわけで、回収についてのリスクを抱えてしまうため、例外的
 で珍しいとされていますが、私は、退職が半年後に予定されており、他にも不動産などまとまった財産が
 ある案件において、この方法で財産分与を受ける裁判上の和解をしたことがあり、半年後の退職時に支
 払もあり、無事、回収することができました。
  ただやはり、相手方に退職金以外の財産がなく、支払に不安がある場合には、この方法は避けるべき
 でしょう。


 以上のとおり、退職金の算出方法については、様々な考え方があり、裁判例も分かれています。
 そして、以前にもご説明したとおり、財産分与については、裁判所に広い裁量が認められているため、どのような方法がとられるかは、事案に応じて様々になります。

 一般的に、退職金は、財産の中でも金額が大きいものですから、その結論次第で、全体的な財産分与の対象額も大きく変動します。
 財産分与の際には、まだ支給されていない退職金であっても、対象から外さないよう十分に注意をしてください。

                                                        弁護士 上 将倫

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