コラム

 公開日: 2017-04-20 

離婚事件簿その18~内縁の夫の相続-戸籍上の妻か?内縁の妻か?

内縁の配偶者の権利

 以前から、様々な理由により、実質的には夫婦であっても、あえて入籍をしないという選択をとられる男女は少なからずおられましたが、最近では、夫婦で別姓を名乗るためなど、価値観の多様化に伴い、入籍をしないという男女が増えているようです。
 このように、実質的には夫婦であるが、入籍だけをしていない夫婦関係を「内縁関係」といいます。
 内縁の男女は、入籍はしていないものの、実質的には夫婦ですから、別離の際には財産分与の請求をすることができますし、パートナーが不貞行為を行った場合には、内縁相手(パートナー本人)、及び不貞相手(浮気相手)に対する損害賠償請求をすることも可能であるなど、多くの場面で入籍をした夫婦と同様の扱いを受けることができます。

 しかし、内縁の配偶者には、相続権はありません。
 かつては、財産分与の規定を相続の場合にも類推適用(本来、適用のない場面で、類似の場面であるとして適用すること)して相続権を認めたのと同様の結果を導く裁判例もありましたが、最高裁判所が平成12年3月10日決定において、「内縁の夫婦について、民法の財産分与の規定を類推適用することは・・・法の予定しないところである」との判断を示したため、内縁の配偶者に相続権を認める途が閉ざされたのです。

 ただ、会社が用意している死亡退職金制度や厚生年金の遺族年金制度などについては、内縁の配偶者に受給が認められる場合もあります。
 これらの制度による受給権については、民法の規定ではなく、個々の法律や就業規則、労働協約等に定められており、内縁の配偶者も受給権者として認められているためです。
 とはいえ、これらの制度にあっても、内縁関係の証明をする必要があり、その証明に困難を伴うケースも少なくありません。
 例えば、内縁の夫婦であるにもかかわらず、何らかの事情で、同じ場所に住民票を置いていなかったような場合です。
 このようなケースでは、内縁の妻が、内縁の夫の健康保険の扶養に入っているか否か、内縁の夫が内縁の妻を対象として税務上の扶養控除を利用していたかどうか、などがポイントになります。
 このような客観的な事実がない場合は、賃貸借契約書の同居者欄の記載や、普段のメールやLINEのやりとり、内縁関係を把握している民生委員の証言などによって、同居の事実を証明していくことになります。

 また、内縁関係の立証に困難が伴うケースにおいては、他の制度において内縁関係が認められたか否かが判断基準となることもあります。
 例えば、内縁の妻が、死亡退職金制度の適用を受けようとする場合に、会社側が、厚生年金において、内縁の妻として遺族年金の受給権を認められたかどうかを重視して判断するというようなケースです。
 このような場合、まずは遺族年金の受給手続において内縁関係の事実を認定してもらうことに注力し、これが認められた後に、死亡退職金制度の適用を求めていくことになります。

内縁の配偶者とは別に戸籍上の配偶者がいる場合-重婚的内縁関係

 内縁の配偶者以外に、戸籍上の配偶者がいる場合には、どちらが受給権者であるかが問題になることがあります。
 例えば、亡くなった男性が、戸籍上の妻とは相当前に別居し、婚姻関係がすでに破綻しているような場合において、その破綻後に他の女性と交際を開始し、内縁関係が形成されているようなケースです。
 この場合、戸籍上の妻と内縁の妻が併存していることから問題になります。

 この点、最高裁判所の昭和58年4月14日判決が、遺族給付の受給権者が戸籍上の妻かそれとも内縁の妻かという点についてのリーディングケースであるとされています。
 同判決は、「戸籍上届出のある配偶者であっても、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込のないとき、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、もはや右遺族給付を受けるべき配偶者に該当しないものというべきである」と判示しました。
 つまり、戸籍上の配偶者であっても、婚姻関係が実体を失っていて、その状態が固定化しているような場合には、遺族給付を受給できず、婚姻関係の実体を備えている内縁の妻が受給権者となると判断したのです。

 最高裁判所は、平成17年4月21日の判決においても、戸籍上の妻の受給権を否定し、内縁の妻に受給権を認めています。
 私立学校職員共済法に基づく退職共済年金の受給権者であった男性が死亡し、その受給権が争われた事案において、同判決は「男性と戸籍上の妻との間の別居が20年もの長期に及んでいること、その間、両者の反復継続した交渉はなかったこと、平成元年12月22日に男性が1000万円を送金しているが、婚姻関係を清算する趣旨を含むものであったことから、戸籍上の妻は、もはや同法による『配偶者』には該当しない」との判断を示しました。
 他方、内縁の妻については「男性と一緒に夫婦同然の生活をしており、男性の収入によって生計を維持していたこと、男性が死亡した際にも最後まで看護をしていたこと等から、『配偶者』に該当する」と判断しました。
 なお、この判決は、5名の裁判官のうち4名の裁判官による多数意見によるものです。
 うち1名の裁判官は次のような反対意見を述べています。
 「男性が勤務先において、戸籍上の妻を被扶養者として扶養手当を受けていたこと、税務上も戸籍上の妻を被扶養者として扶養控除を受けていたこと、男性が戸籍上の妻を配偶者とする加給年金の支給を受けていたこと、男性が戸籍上の妻が住んでいた宿舎の宿舎料を支払っていたこと等の事実関係からすれば、戸籍上の妻との関係が実体を失って形骸化しているとはいえない。」

 これら最高裁判例をまとめると、まず、死亡した方と戸籍上の配偶者との関係が、実体を失って形骸化しているか否かの判断におけるポイントは以下のとおりになります。

 (1) 別居の期間がどれくらいか
    概ね、別居が10年以上であれば、形骸化を認める方向に働くと思われます。
 (2) 相互の行き来や連絡があるかどうか
    音信や訪問等の事実があったかどうか、これを立証する証拠があるか否かが大切です。
 (3) 経済的な依存関係が反復継続して存在するか
    定期的な生活費の送金があったがどうか、これを立証できるかどうかが重要です。

 他方、死亡した方との内縁関係が認められるためには、以下のようなことを立証する必要があります。
 (1) 夫婦として同居していること
 (2) 経済的な依存関係または扶養関係があること等


 戸籍上の配偶者との関係が実体を失って形骸化しているのか否か、新たなパートナーとの関係が夫婦として実体のある内縁関係に至っているのか否かは、必ずしも客観的に明らかであるものではなく、どちらに転んでもおかしくない微妙なものであることは否めません。
 事実、上記平成17年の最高裁判決のケースにおいても、裁判官の判断は分かれました。
 私もこの種の事案を担当したことがありますが、当事者それぞれの思いが交錯して、一筋縄ではいかないばかりではなく、給付を行う機関が、厳格に、悪くいえばお役所的に手続を行って、なかなか柔軟な対応をしてくれず苦労した記憶があります。
 自分で対応してうまくいかなかったからといって、必ずしも諦める必要はありません。
 そもそもが難しい問題なのです。お困りの場合には、私たち弁護士にご相談ください。

                                                    弁護士 上 将倫

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